ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

カント

【第4巻】あなたなら薬を盗む?-哲学の思考実験が教える現代人の判断力- 【Kindle出版】

思考実験から始める高校倫理④: 思考実験を入り口に、「考えるって何だろう?」に出会う本 (チネモリ出版) 作者:知念 盛人 チネモリ出版 Amazon 友だちがSNSで嘘をついているのを見つけたとき、あなたはどうしますか。大切な人のために、ちょっとした嘘をつい…

【カント道徳哲学】カントの「義務」概念の理解 -日常的な義務概念との比較を通じて-

道徳形而上学の基礎づけ [新装版] 作者:イマヌエル カント 以文社 Amazon カントが構築した道徳哲学では、「義務」は中核的な概念のひとつである。この概念は、行為の主観的原理である「格率」や、道徳法則である「定言命法」、すなわち「汝の格率が普遍的法…

【カント道徳哲学】カント哲学への扉を開く -『基礎づけ』から始める、あなたの哲学的思考-【Kindle出版】

カント道徳哲学の鍵: 『道徳形而上学の基礎づけ』と共に探る (チネモリ出版) 作者:知念 盛人 チネモリ出版 Amazon 正しい行いとは何か。この根本的な問いに、論理的で明確な答えを与えた哲学者がいます。それがイマヌエル・カントです。 現代社会では、AI倫…

【カント道徳哲学】悪から始まる道徳- カントが示す目覚めの道徳哲学ー

カント全集 10 たんなる理性の限界内の宗教 岩波書店 Amazon カント道徳哲学では、「善意志」(guter Wille)や「定言命法」(kategorischer Imperativ)はよく知られた出発点である。しかし、カントが真に見据えていたのは、人間の道徳性が単なる善への志向…

【カント道徳哲学】カント道徳哲学における自己と他者の緊張関係 ー「定言命法」の普遍性と「拡張された考え方」の間でー

道徳形而上学の基礎づけ 作者:イマヌエル・カント 人文書院 Amazon カントの道徳哲学を読み解く際、われわれはしばしばひとつの錯覚に陥る。それは、カントの哲学体系が純粋に自己完結的な主体性の哲学であるという誤解である。確かに『道徳形而上学の基礎づ…

【カント道徳哲学】「趣味判断」の射程と可能性 ー『判断力批判』が開く道徳哲学の新展開ー

判断力批判 上 新装版 作者:イマヌエル カント 以文社 Amazon カント哲学の中で、『判断力批判』は長らく『純粋理性批判』と『実践理性批判』の「架け橋」として解釈されてきた。一方で、近年の研究動向は、『判断力批判』がより積極的かつ独自の哲学的貢献…

【カント道徳哲学】『基礎づけ』と『実践理性批判』における「義務」の比較検討 -道徳法則との関わりから見る思考の転回-

道徳形而上学の基礎づけ 作者:イマヌエル・カント 人文書院 Amazon カント道徳哲学での「義務」(Pflicht)概念は、その体系的思考の核心を成す最重要概念のひとつである。本記事では、『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』と略記)と『実践理性批判…

【カント道徳哲学】カント道徳哲学における道徳法則の同一性 ー『道徳形而上学の基礎づけ』と『実践理性批判』の比較検討ー

道徳形而上学の基礎づけ 作者:イマヌエル・カント 人文書院 Amazon カント道徳哲学の中核をなす「道徳法則」(moralisches Gesetz)が、主著である『道徳形而上学の基礎づけ』と『実践理性批判』の中で異なる表現形式で提示されているという事実は、カント研究…

【第4回】カント教育哲学から見る現代の教育改革 - 道徳教育と『学習指導要領』の考察|終わりにーカント道徳哲学と新学習指導要領の親和性ー【教育倫理学】

人間学・教育学 (西洋の教育思想 5) 作者:イマヌエル カント 玉川大学出版部 Amazon 本稿では、平成30年度告示『高等学校学習指導要領』が掲げる「主体的・対話的で深い学び」の理念を、カントの道徳教育論の視座から批判的に検討してきた。両者の哲学的親和…

【第3回】カント教育哲学から見る現代の教育改革 - 道徳教育と『学習指導要領』の考察| 『啓蒙とは何か』での「理性の公的使用」の革新性【教育倫理学】 

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫) 作者:カント 光文社 Amazon 前回の記事で、カントの道徳教育論は、純粋実践理性の働きに基づいた自律的な道徳性の育成という理念を示しつつ、その具体的な実践方法も提示していることを明らかに…

【第2回】カント教育哲学から見る現代の教育改革 - 道徳教育と『学習指導要領』の考察|道徳的判断力の開発 ―『実践理性批判』から現代の教育実践へ―【教育倫理学】

カントの教育論を包括的に分析した本連載は、『教育学』から『啓蒙とは何か』までの著作を横断的に検討し、その現代的意義を探究するものです。全4回の構成を通じて、人間の教育可能性、道徳的判断力の育成、理性の公的使用の意義、そして教育理論の実践応用…

【第1回】カント教育哲学から見る現代の教育改革 - 道徳教育と『学習指導要領』の考察|教育されるべき存在としての人間 ―カント『教育学』から現代の学習指導要領への展開―【教育倫理学】

本記事は、カントの教育哲学と現代の教育改革、特に高等学校の新学習指導要領との関連性を論じた学術論文の序論部分である。主なポイントは以下の通り。: 研究の背景と目的 デジタル革命やSociety5.0の到来による教育の転換期において、カントの思想から現…

【第2回】カントの義務論-「完全義務」と「不完全義務」の考察-【カント道徳哲学】

道徳形而上学の基礎づけ 作者:イマヌエル・カント 人文書院 Amazon 『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』と略記)の中で、カントは、「義務」(Pflicht)を2種類に分類する。2種類の「義務」とは、すなわち「完全義務」(vollkommene Pflicht)と「不完…

【第1回】カントの義務論-「完全義務」と「不完全義務」の考察-【カント道徳哲学】

道徳形而上学の基礎づけ 作者:イマヌエル・カント 人文書院 Amazon 『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』と略記)の中で、カントは、「義務」(Pflicht)を2種類に分類する。2種類の「義務」とは、すなわち「完全義務」(vollkommene Pflicht)と「不完…

【第2回】エゴイズム-『実用的見地における人間学』を中心に-|「悪」から見るカント道徳哲学【カント道徳哲学】

カント全集 15 人間学 岩波書店 Amazon 本稿では、『実用的見地における人間学』(以下『人間学』と略記)に登場する「エゴイズム」(Egoismus)を、他のカントの著作なども参考にしながら考察している。前回の記事では、「エゴイズム」と「定言命法」(kategoris…

【第1回】エゴイズム-『実用的見地における人間学』を中心に-|「悪」から見るカント道徳哲学【カント道徳哲学】

カント全集 15 人間学 岩波書店 Amazon 『単なる理性の限界内の宗教』(以下『宗教論』と略記)でカントは「人間は生来悪」(Ⅺ,32)と明示し、『世界市民という視点からみた普遍史の理念』(以下『普遍史』と略記)では「非社交的社交性」(ungesellige Geseligkeit…

【第2回】非社交的社交性|「悪」から見るカント道徳哲学【カント道徳哲学】

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫) 作者:カント 光文社 Amazon カントは「悪」と向き合い、「道徳法則」(moralisches Gesetz)とどう関連付けたのか。この問いについて考察するため、『世界市民という視点からみた普遍史の理念』(…

【第1回】非社交的社交性|「悪」から見るカント道徳哲学【カント道徳哲学】

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫) 作者:カント 光文社 Amazon 認識論にしろ道徳哲学にしろ『三批判書』の中で、カントは一貫して「理性的存在者」(vernüftiges Wessen)の視点から自らの批判哲学を展開する。 一方で『単なる理性…

【カント道徳哲学】「善意志」の絶対的優位性|ロールズの解釈を手がかりに【ロールズ】

ロールズ 哲学史講義 上 作者:ジョン・ロールズ みすず書房 Amazon 『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』と略記)の到達地点は、「道徳性の最上原理を探求し、それを確定すること」(Ⅳ,392)である。その到達地点に向かうため、『基礎づけ』でカントは…

【カント道徳哲学】カントの間接義務|家畜動物や伴侶動物を丁寧に扱うことは間接義務である。

カント全集〈11〉人倫の形而上学 作者:カント 岩波書店 Amazon われわれ人間と人間以外の動物の倫理的関係のあり方について考える際、カント道徳哲学は大きな手がかりを与えてくれる。カント道徳哲学には様々な概念が存在するが、本稿では「間接義務」(indir…

【抄訳と訳注⑲】Tom Regan,1983:The Case for Animal Rights (p.174-pp.185)【カント道徳哲学】

The Case for Animal Rights 作者:Regan, Tom University of California Press Amazon 【前の記事】 chine-mori.hatenablog.jp 5.5 カントの立場:目的それ自体としての人間性 (p.183-pp.184) A defender of Kant might object that Kant has been misinterp…

【抄訳と訳注⑧】Tom Regan,1983:The Case for Animal Rights (p.174-pp.185)【カント道徳哲学】

The Case for Animal Rights 作者:Regan, Tom University of California Press Amazon 【前の記事】 chine-mori.hatenablog.jp 5.5 カントの立場:目的それ自体としての人間性 (p178-pp.179) Three preliminary criticisms are worth making before moving o…

【抄訳と訳注⑥】Tom Regan,1983:The Case for Animal Rights (p.174-pp.185)【カント道徳哲学】

The Case for Animal Rights 作者:Regan, Tom University of California Press Amazon 【前の記事】 chine-mori.hatenablog.jp 5.5 カントの立場:目的それ自体としての人間性(p.177) While Kant’s moral theory is not a version of egoism, it has affinit…

【抄訳と訳注⑤】Tom Regan,1983:The Case for Animal Rights (p.174-pp.185)【カント道徳哲学】

The Case for Animal Rights 作者:Regan, Tom University of California Press Amazon 【前の記事】 chine-mori.hatenablog.jp 5.5 カントの立場:目的それ自体としての人間性 (p.176ーpp.177) Kant’s understanding of the foundation of morality, unlike N…

【第2回】子どもへの教育実践は「不完全義務」か-『理性の構成』を手がかりに【教育倫理学】

理性の構成: カント実践哲学の探究 (叢書・ウニベルシタス) 作者:オニール,オノラ 法政大学出版局 Amazon 前回の記事で『理性の構成』を基に、教師に代表される教育実践を司る立場は「特定」の他者である眼前の子どもに、ある行為を果たすことあるいは控える…

【第2回】カント「不完全義務」を再解釈する|「不完全義務」は「例外を許す義務」なのか【カント道徳哲学】

カント全集 第11巻 人倫の形而上学 作者:カント 理想社 Amazon 【第1回】の記事で、カントの「不完全義務」は「例外を許す義務」という解釈は、カント道徳哲学の体系から大きく外れることを指摘した。 そして道徳の「普遍化可能性」を維持する目線をカントは…

【第1回】カント「不完全義務」を再解釈する|「不完全義務」は「例外を許す義務」なのか【カント道徳哲学】

道徳形而上学の基礎づけ [新装版] 作者:イマヌエル カント 以文社 Amazon 教育(※1)やボランティア活動(※2)について倫理学的に考える際に、カントの「不完全義務」は有効な概念である。一般的に「不完全義務」は「例外を許す義務」であると解釈されることがあ…

【第3回】「定言命法」と「3つの格率」【カント道徳哲学】

正義論 作者:ジョン・ロールズ 紀伊國屋書店 Amazon 前回の記事で、オニールの解釈に従って、「定言命法」と「3つの格率」について検討を行った。その結果、次の疑問が提起された。 ・「他のあらゆる立場」に立って考えられる「他者」とは一体誰か。 ・「拡張…

【第2回】「定言命法」と「3つの格率」【カント道徳哲学】

理性の構成: カント実践哲学の探究 (叢書・ウニベルシタス) 作者:オニール,オノラ 法政大学出版局 Amazon 前回の記事で、『判断力批判』に即して「3つの格率」を検討した。『判断力批判』の「3つの格率」とは、以下の「格率」である。 ①偏見に囚われない考え…

【第1回】「定言命法」と「3つの格率」【カント道徳哲学】

判断力批判 上 新装版 作者:イマヌエル カント 以文社 Amazon 前回の記事「ボランティア活動の倫理学」では、筆者は「定言命法」に関する解釈を提示した。以下がその内容である。 「定言命法」でのポイントは、「格率」が自己矛盾を犯さないかどうかという「…