ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

カント道徳哲学

【第2回】「趣味判断」と「共通感官」ーカント「不完全義務」を視野に入れてー|【カント道徳哲学】

判断力批判 上 新装版 作者:イマヌエル カント 以文社 Amazon 前回の記事でも述べたように、「趣味判断」をあるものを「美しい」と判定する判断のことである、とカントは定義した。「趣味判断」は主観的な判断である一方で、「趣味判断」はあらゆる主観に普…

【第1回】「趣味判断」と「共通感官」ーカント「不完全義務」を視野に入れてー|【カント道徳哲学】

判断力批判 上 新装版 作者:イマヌエル カント 以文社 Amazon 本稿の目的は、カントの著書である『判断力批判』の中に登場する「趣味判断」(Geschmacksurteil)を道徳哲学の文脈から検討することである。 特に注目すべきは、「趣味判断」が『道徳形而上学の基…

【第2回】カントの義務論-「完全義務」と「不完全義務」の考察-【カント道徳哲学】

道徳形而上学の基礎づけ 作者:イマヌエル・カント 人文書院 Amazon 『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』と略記)の中で、カントは、「義務」(Pflicht)を2種類に分類する。2種類の「義務」とは、すなわち「完全義務」(vollkommene Pflicht)と「不完…

【第1回】カントの義務論-「完全義務」と「不完全義務」の考察-【カント道徳哲学】

道徳形而上学の基礎づけ 作者:イマヌエル・カント 人文書院 Amazon 『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』と略記)の中で、カントは、「義務」(Pflicht)を2種類に分類する。2種類の「義務」とは、すなわち「完全義務」(vollkommene Pflicht)と「不完…

【第2回】エゴイズム-『実用的見地における人間学』を中心に-|「悪」から見るカント道徳哲学【カント道徳哲学】

カント全集 15 人間学 岩波書店 Amazon 本稿では、『実用的見地における人間学』(以下『人間学』と略記)に登場する「エゴイズム」(Egoismus)を、他のカントの著作なども参考にしながら考察している。前回の記事では、「エゴイズム」と「定言命法」(kategoris…

【第1回】エゴイズム-『実用的見地における人間学』を中心に-|「悪」から見るカント道徳哲学【カント道徳哲学】

カント全集 15 人間学 岩波書店 Amazon 『単なる理性の限界内の宗教』(以下『宗教論』と略記)でカントは「人間は生来悪」(Ⅺ,32)と明示し、『世界市民という視点からみた普遍史の理念』(以下『普遍史』と略記)では「非社交的社交性」(ungesellige Geseligkeit…

【第2回】非社交的社交性|「悪」から見るカント道徳哲学【カント道徳哲学】

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫) 作者:カント 光文社 Amazon カントは「悪」と向き合い、「道徳法則」(moralisches Gesetz)とどう関連付けたのか。この問いについて考察するため、『世界市民という視点からみた普遍史の理念』(…

【第1回】非社交的社交性|「悪」から見るカント道徳哲学【カント道徳哲学】

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫) 作者:カント 光文社 Amazon 認識論にしろ道徳哲学にしろ『三批判書』の中で、カントは一貫して「理性的存在者」(vernüftiges Wessen)の視点から自らの批判哲学を展開する。 一方で『単なる理性…

【カント道徳哲学】「善意志」の絶対的優位性|ロールズの解釈を手がかりに【ロールズ】

ロールズ 哲学史講義 上 作者:ジョン・ロールズ みすず書房 Amazon 『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』と略記)の到達地点は、「道徳性の最上原理を探求し、それを確定すること」(Ⅳ,392)である。その到達地点に向かうため、『基礎づけ』でカントは…

【カント道徳哲学】カントの間接義務|家畜動物や伴侶動物を丁寧に扱うことは間接義務である。

カント全集〈11〉人倫の形而上学 作者:カント 岩波書店 Amazon われわれ人間と人間以外の動物の倫理的関係のあり方について考える際、カント道徳哲学は大きな手がかりを与えてくれる。カント道徳哲学には様々な概念が存在するが、本稿では「間接義務」(indir…

【抄訳と訳注⑲】Tom Regan,1983:The Case for Animal Rights (p.174-pp.185)【カント道徳哲学】

The Case for Animal Rights 作者:Regan, Tom University of California Press Amazon 【前の記事】 chine-mori.hatenablog.jp 5.5 カントの立場:目的それ自体としての人間性 (p.183-pp.184) A defender of Kant might object that Kant has been misinterp…

【抄訳と訳注⑧】Tom Regan,1983:The Case for Animal Rights (p.174-pp.185)【カント道徳哲学】

The Case for Animal Rights 作者:Regan, Tom University of California Press Amazon 【前の記事】 chine-mori.hatenablog.jp 5.5 カントの立場:目的それ自体としての人間性 (p178-pp.179) Three preliminary criticisms are worth making before moving o…

【抄訳と訳注⑥】Tom Regan,1983:The Case for Animal Rights (p.174-pp.185)【カント道徳哲学】

The Case for Animal Rights 作者:Regan, Tom University of California Press Amazon 【前の記事】 chine-mori.hatenablog.jp 5.5 カントの立場:目的それ自体としての人間性(p.177) While Kant’s moral theory is not a version of egoism, it has affinit…

【抄訳と訳注⑤】Tom Regan,1983:The Case for Animal Rights (p.174-pp.185)【カント道徳哲学】

The Case for Animal Rights 作者:Regan, Tom University of California Press Amazon 【前の記事】 chine-mori.hatenablog.jp 5.5 カントの立場:目的それ自体としての人間性 (p.176ーpp.177) Kant’s understanding of the foundation of morality, unlike N…

【第2回】子どもへの教育実践は「不完全義務」か-『理性の構成』を手がかりに【教育倫理学】

理性の構成: カント実践哲学の探究 (叢書・ウニベルシタス) 作者:オニール,オノラ 法政大学出版局 Amazon 前回の記事で『理性の構成』を基に、教師に代表される教育実践を司る立場は「特定」の他者である眼前の子どもに、ある行為を果たすことあるいは控える…

【第2回】カント「不完全義務」を再解釈する|「不完全義務」は「例外を許す義務」なのか【カント道徳哲学】

カント全集 第11巻 人倫の形而上学 作者:カント 理想社 Amazon 【第1回】の記事で、カントの「不完全義務」は「例外を許す義務」という解釈は、カント道徳哲学の体系から大きく外れることを指摘した。 そして道徳の「普遍化可能性」を維持する目線をカントは…

【第1回】カント「不完全義務」を再解釈する|「不完全義務」は「例外を許す義務」なのか【カント道徳哲学】

道徳形而上学の基礎づけ [新装版] 作者:イマヌエル カント 以文社 Amazon 教育(※1)やボランティア活動(※2)について倫理学的に考える際に、カントの「不完全義務」は有効な概念である。一般的に「不完全義務」は「例外を許す義務」であると解釈されることがあ…

【第3回】「定言命法」と「3つの格率」【カント道徳哲学】

正義論 作者:ジョン・ロールズ 紀伊國屋書店 Amazon 前回の記事で、オニールの解釈に従って、「定言命法」と「3つの格率」について検討を行った。その結果、次の疑問が提起された。 ・「他のあらゆる立場」に立って考えられる「他者」とは一体誰か。 ・「拡張…

【第2回】「定言命法」と「3つの格率」【カント道徳哲学】

理性の構成: カント実践哲学の探究 (叢書・ウニベルシタス) 作者:オニール,オノラ 法政大学出版局 Amazon 前回の記事で、『判断力批判』に即して「3つの格率」を検討した。『判断力批判』の「3つの格率」とは、以下の「格率」である。 ①偏見に囚われない考え…

【第1回】「定言命法」と「3つの格率」【カント道徳哲学】

判断力批判 上 新装版 作者:イマヌエル カント 以文社 Amazon 前回の記事「ボランティア活動の倫理学」では、筆者は「定言命法」に関する解釈を提示した。以下がその内容である。 「定言命法」でのポイントは、「格率」が自己矛盾を犯さないかどうかという「…

【第3回】ボランティア活動の倫理学 |「定言命法」から考えるボランティア活動

道徳形而上学の基礎づけ [新装版] 作者:イマヌエル カント 以文社 Amazon 前回の記事で、次の2点を確認した。 ・ボランティア活動は「他人に対する不完全義務」である。 ・ボランティア活動は「活動の余地」を持つ。 【前回の記事】 chine-mori.hatenablog.jp …

【第2回】ボランティア活動の倫理学 |「他人に対する不完全義務」とボランティア活動

道徳形而上学の基礎づけ [新装版] 作者:イマヌエル カント 以文社 Amazon 前回の記事で、厚生労働省を基にボランティア活動を定義し、近藤良樹のボランティア活動の特徴について検討した。 【前回の記事】 chine-mori.hatenablog.jp ボランティア活動につい…

【抄訳と訳注⑳】Tom Regan,1983:The Case for Animal Rights (p.174-pp.185)【カント道徳哲学】

The Case for Animal Rights 作者:Regan, Tom University of California Press Amazon 【前の記事】 chine-mori.hatenablog.jp 5.5 カントの立場:目的それ自体としての人間性 (p.184) Though neither alternative is welcome news for Kantians, the select…

【抄訳と訳注⑱】Tom Regan,1983:The Case for Animal Rights (p.174-pp.185)【カント道徳哲学】

The Case for Animal Rights 作者:Regan, Tom University of California Press Amazon 【前の記事】 chine-mori.hatenablog.jp 5.5 カントの立場:目的それ自体としての人間性 (p.183) But Kant’s position is worse than implausible; it is arbitrary. Let…

【独学大全】カント『宗教論』に「段落要約」と「注釈」をつけてみて学んだこと3つ【勉強法】

独学大全――絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法 作者:読書猿 ダイヤモンド社 Amazon 『独学大全』は、20万部(当時)を超えるベストセラーである。本書の目的は、「独学者を支え援護する」(p.8)ことである。 大学院(修士)を修了してか…

【要約と注釈㉑】たんなる理性の限界内の宗教|第2編第2章 一般的注解(段落1~段落4)

カント全集〈10〉たんなる理性の限界内の宗教 作者:カント 岩波書店 Amazon [内容] 第2編 人間の支配をめぐっての善の原理による悪との戦いについて 第2章 人間支配への悪の原理の権利主張、および両原理相互の戦いについて 一般的注解 ・段落1 要約と注釈 ・…

【要約と注釈⑳】たんなる理性の限界内の宗教|第2編第2章(段落1~段落4)

カント全集〈10〉たんなる理性の限界内の宗教 作者:カント 岩波書店 Amazon [内容] 第2編 人間の支配をめぐっての善の原理による悪との戦いについて 第2章 人間支配への悪の原理の権利主張、および両原理相互の戦いについて ・段落1 要約と注釈 ・段落2 要約と…

【要約と注釈⑲】たんなる理性の限界内の宗教|第2編第1章(c)(段落4~段落6)

カント全集〈10〉たんなる理性の限界内の宗教 作者:カント 岩波書店 Amazon [内容] 第2編 人間の支配をめぐっての善の原理による悪との戦いについて 第1章 人間支配への善の原理の権利主張について c この理念の実在性に突きつけられる難問、およびその解決 …

【要約と注釈⑱】たんなる理性の限界内の宗教|第2編第1章(c)(段落1~段落3)

カント全集〈10〉たんなる理性の限界内の宗教 作者:カント 岩波書店 Amazon [内容] 第2編 人間の支配をめぐっての善の原理による悪との戦いについて 第1章 人間支配への善の原理の権利主張について c この理念の実在性に突きつけられる難問、およびその解決 …

【要約と注釈⑰】たんなる理性の限界内の宗教|第2編第1章(b)(段落1~段落4)

カント全集〈10〉たんなる理性の限界内の宗教 作者:カント 岩波書店 Amazon [内容] 第2編 人間の支配をめぐっての善の原理による悪との戦いについて 第1章 人間支配への善の原理の権利主張について b この理念の客観的実存性 ・段落1 要約と注釈 ・段落2 要約…