1.はじめに
本稿の目的は、『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』と略記)と『実践理性批判』それぞれの中で、語られるカントの「義務」について検討することである。今回は、4つの手順で議論を進める。第1に、カントの「義務」の概略を確認する。
カントは、「義務」を人間の意志を決定する強制力として規定する。『基礎づけ』と『実践理性批判』で、共通に認められる、このような「義務」について大まかに確認する。
第2に、『基礎づけ』でカントの「義務」はどのように語られているか、ということを検討する。『基礎づけ』の第2章の「通俗的な道徳哲学から道徳形而上学への移行」を中心に、「義務」から「定言命法」までの流れを検討する。そうすることで『基礎づけ』での「義務」の位置付けがどのようなものか、分かってくるであろう。
第3に、『実践理性批判』でカントの「義務」はどのように語られているか、ということを検討する。『実践理性批判』の「分析論」を中心に、純粋実践理性の根本法則から「義務」を導出する過程を通して、『実践理性批判』での「義務」の位置づけを検討する。
最後に、『基礎づけ』で語られている「義務」と『実践理性批判』で語られている「義務」を比較検討する。すると『基礎づけ』で「義務」は道徳法則を導出するためのものとして設定され、他方『実践理性批判』では道徳法則から「義務」が導出されている、ということが確認できる。
このように、道徳法則との関係から「義務」を検討するならば、「義務」という概念の比較的幅広い理解が得られるであろう。【続く】