2.「義務」についての概要
『基礎づけ』でも『実践理性批判』でも、カントは、「義務」を、人間の意志を規定する強制力として規定する。カントによれば、「義務」という概念は、単に人間にしか当てはまらない。なぜなら、人間は理性的存在者であると同時に、感性的存在者でもあるからである。
動物は、自らの感性にのみ基づいて行動する。動物は理性的に振舞おうとはしない。したがって、動物には「義務」という概念は、当てはまらない。
また、神のような感性的でない理性的存在者は、必然的に普遍的法則に従う。神のような感性的でない理性的存在者の場合、「義務」は強制力ではなく、単に事実として存在する。神のような感性的でない理性的存在者にとって、「義務」という強制力は当てはまらない。
以上の理由で、「義務」という概念は、理性的存在者であると同時に感性的存在者である人間にだけにしか当てはまらない。「義務」へのカントの見解は、大体において『基礎づけ』でも、『実践理性批判』でも、同様に読み取ることができる。
しかし、道徳法則との関わりから「義務」を検討すると、『基礎づけ』と『実践理性批判』での「義務」への説明方法は対照的である。
次に、『基礎づけ』と『実践理性批判』の中で、どのように「義務」への説明がなされているのかということについて検討する。【続く】