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3.他人に対する完全義務ー虚言の例ー
第2に、「他人に対する完全義務」に反する「格率」について検討する。
金に困窮した人が金を返すことができないことを知りながら他人から借金をする、という状況を、カントは設定する。
ここで、カントは「金に困っている時に他人から借金をして、金を返すことが決してできないことを知りながら返済の約束をする」という「格率」が、普遍的法則となり得るかどうかを考える。
【参考:カント批判倫理学ーその歴史的・体系的研究】
この「格率」が普遍的法則になり得るかどうかを考えると、カントは「自分自身に対する完全義務」と同様に、この「格率」が自己矛盾を犯すという結論を下す。
なぜなら、もしも「金に困っている」という理由で、誰でも思いついたことを守るつもりもなく約束することができることを普遍的法則として考えるのであれば、約束を約束によって達成することができる目的を、それ自体不可能にするからである。嘘の約束によって誰も何か約束されたとは信じないし、人々はこうした約束を空しい申し出としてあざ笑う。
以上の説明から、この「格率」は「他人に対する完全義務」に反するので、この「格率」は普遍的法則になり得ないとカントは結論づける。【続く】
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