4.結びにかえて
以上、「趣味判断」について検討してきたが、『判断力批判』に即して「不完全義務」についても考察する必要がある。また、今後は「趣味判断」と道徳との関わりについても検討が必要になってくるだろう。
【前回の記事】
宇都宮芳明によると、『判断力批判』の最終課題は、人間の認識能力、快不快の感情、欲求能力という3つの「心の能力」を、個別に放置せずに総合的に統一することである。そのため、美的な判断と道徳的な判断は関連していると考えられる。
また『判断力批判』の検討と同時に、『美と崇高の感情に関する観察』や『人間学』も検討する必要がある。特に『美と崇高の感情に関する観察』には、美と道徳についての記述が含まれている。このように、今後は広範囲にわたるカント研究が必要になってくるだろう。
「不完全義務」は、カント道徳哲学の中で重要な概念であり、一定の理解が必要である。ただし、その理解には『道徳の形而上学の基礎づけ』や『実践理性批判』、『道徳形而上学』といった、カント道徳哲学の諸著作に加え、幅広い哲学的知識が必要となることがある。これまで以上に広い視野を持って、様々な分野の知識を統合的に学ぶことが、カント研究の発展に不可欠であると考えられる。【終わり】
【参考文献】