ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【第1回】カント道徳哲学での道徳的主体と他者との関係性について|はじめに【カント道徳哲学】

 

1.はじめに

 

 カントは、われわれの理性から普遍的な道徳法則を導き出す。この普遍的な道徳法則が、「定言命法」(Imperative Gesetz)である。カントの全体的な説明の仕方から考えると、一見、カントは自己から出発して自己の内部だけで道徳的なあり方を模索しているように思われる。しかし、カントは必ずしも他者を無視したわけではない。

 

 『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』と略記)や『人倫の形而上学』の中で、問題にしているのは、主に道徳的主体である自己である。ここでは、他者についてあまり問題にしていない。

 

 一方、『判断力批判』では、自己と他者との関係性をカントは念頭に置く。つまり『基礎づけ』や『人倫の形而上学』と『判断力批判』では、カントの主眼が違う。

 

 今回の目的は、カントの道徳哲学の書である『基礎づけ』や『人倫の形而上学』と、『判断力批判』で語られる他者について検討することである。そのため、以下の手順で議論を進める。

 

 第1に、『人倫の形而上学』で説明されている「虚言」について検討する。『基礎づけ』では、「虚言」を「他者に対する完全義務」の反例として扱う。

 

 他方、『人倫の形而上学』では、「虚言」を「自分自身に対する完全義務」の反例として扱う。また『人倫の形而上学』では、「自分自身に対する義務」は「他者に対する義務」よりも、優先させるべきである、とカントは述べる。

 

 このことから、カントは自らの道徳哲学の中で他者を問題にするのではなく、むしろ道徳的主体である自己を問題にしたということを指摘する。

 

 第2に、『判断力批判』で登場する3つの格率を取り上げる。『判断力批判』の中で登場する格率とは、次の3つである。1つ目は、自分で考えることである。それは、「偏見にとらわれない考え方の格率」と呼ばれる。

 

 2つ目は、他のあらゆる立場に立って考えることである。それは、「拡張された考え方の格率」と呼ばれる。

 

 3つ目は、いつも自分自身と一致して考えることである。それは、「首尾一貫した考え方の格率」と呼ばれる。

 

 特に、2つ目の格率を検討することで、カントはここで他者との関係性を念頭に置いているということを指摘する。

 

 今回の目的が上手く達成できるのであれば、『基礎づけ』や『人倫の形而上学』での他者の扱い方と、『判断力批判』での他者の扱い方が明確になるだろう。それでは、それぞれで扱われる他者について検討してみよう。【続く】