ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【第1回】人間以外の動物への倫理的配慮の基準は「苦痛」だけでは不十分である|動物への倫理的配慮基準の新たな視点【動物倫理学】

 

1.人間以外の動物への倫理的配慮基準の新たな視点

 

 沖縄県では、「一生うちの子プロジェクト」という取り組みを実施している。この取り組みの目標は、県内での捨て犬や捨て猫をゼロにすることである。

 

 その中で、特に犬猫の飼い主に①終生飼育②飼い主明示③不妊去勢④放し飼いはしない⑤完全室内飼育を呼びかけている。また、飼い犬に迷子札やマイクロチップ装着を義務づけている。

 

【参考:沖縄県 一生うちの子プロジェクト】

inuneko-okinawa.jp

 

 このような取り組みの背景のひとつに、「動物の権利運動」が考えられる。「動物の権利運動」は、人間の利益のため動物を利用し搾取する制度を批判する。

 

 例えば、大規模な集約式畜産制度、動物実験そしてサーカスや水族館などでの動物を用いた興行などの制度や慣習などを、この運動は批判する。この動きは、1970年代から始まった。

 

 この運動の先導者は、ピーター・シンガーである。彼の著書『動物の解放』の中で、人間以外の動物への倫理的配慮の基準を「苦痛」に置く。しかし彼の設定したこの基準だけでは、十分ではないと思われる。

 

 本稿の目的は、人間以外の動物の倫理的配慮の基準を「苦痛」だけではない、別の視点から捉え直すことである。その目的を達成するために、次の手順で議論する。

  

 第1に、シンガー自身の主張を整理する。彼の主張の根拠は、ベンサムの「功利主義」である。ベンサムの主張も扱うことで、シンガーの考えを明確にする。

 

 第2に、久保田さゆりの主張を参考にしながら「苦痛」だけではない、新たな基準を提示する。彼女によれば、「苦痛」というネガティブな面だけではなく、彼/彼女らの「豊かな内面」など、ポジティブな面にこそ注目するべきだと主張する。この点に関して、特に犬猫などの伴侶動物に注目する。

 

 以上の手順を踏まえていけば、「苦痛」という人間以外動物への倫理的配慮の基準は、一面的であることが示される。その先に、動物倫理への新たな視点を見出すことができるだろう。【続く】

 

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