ネコと倫理学

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【第2回】動物倫理入門 |「人間例外主義」とは人間は動物に対して倫理的責任がないという立場【動物倫理学】

 
動物倫理入門

動物倫理入門

 

 

[内容]

 ■【第1回】本書は「人間例外主義」批判に基づく入門書

■【第2回】「人間例外主義」とは人間は動物に対して倫理的責任がないという立場

■【第3回】「人間例外主義」では言語を使用しない人間が配慮の対象にならない

■【第3回】まとめ

 

 【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

■「人間例外主義」とは人間は動物に対して倫理的責任がないという立場

 

 「人間例外主義」とは、人間は動物に対して倫理的責任がないという立場である。著者は明確には示していないが、本書全体を通してこのように考えていることが示唆される。以下に根拠となる箇所を引用する。

 

 私が人間例外主義(human exceptionalism)と呼ぶ見解は、私たちが心理的にも知的にも自身の動物性から、そしてその延長線上にある動物から距離を置くことなどから生じる。人間は動物と異なるし、人間は自身の動物性を超越していると言う者さえいる。私たちは人間を世界の創造者、意味の担い手と見るが、動物はそうではないと考える。私たちは人間にしかできない活動、私たちを動物の上位に置く活動を営む。人間は独特の優越的な地位を占めるのだから、人間だけが倫理的配慮の適切な対象であると考える者もいる。(邦頁,2)

 

 「人間例外主義」は、心理的にも知的にも自身の動物性から距離を置くことから生じる。上記の引用箇所のポイントは、次の3つである。

 

・人間は他の動物と異なり、自らの動物性を超越している。
・人間にしかできない活動は、他の動物の活動より上位にある。
・独特な優越的地位を占めるので、人間だけが倫理的配慮の適切な対象になる。

 

  「人間例外主義」という考えが、人間と人間以外の動物の間で道徳的な分断を起こすと、著者の立場から述べている。著者は、人間と人間以外の動物との身体的構造の違いだけでなく、知的能力や能力の面でもそれほど大きな違いはないと主張している。

 

 「他の動物とは違う」というわれわれ人間の単なる思い込みが、「人間例外主義」を生み、人間は動物に対して倫理的責任がない、と考えているだけに過ぎない。

 

 また著者によれば、「人間例外主義」の本当の問題は、人間を動物の上に位置づける規範的主張である。「規範的」という言葉は、社会が何を「正常」と見なすかを示す。人間を動物より重視することは、社会的に期待されている。これが、一般的な意味での「規範的」である。

 

 では、なぜある能力を持つことが、その能力を持っていない人より優れていると、より倫理的な配慮に値するものになるのか。哲学的視点から、著者はこのような疑問を抱く。

 

 「人間が○○という能力を持つ一方、人間以外の動物がそれを持たない」という事実があるからといって、人間が動物に対して倫理的責任を負わなくてもよいというのは誤りである。ある能力を持つことと、倫理的配慮や責任の対象になり得るかという問題は別である。このように、著者は哲学的視点から疑問を呈している。

 

 著者もこの意味で「規範的」というのは、人間を特別な存在にする何らかの能力にわれわれが倫理的な重要性を与えることを指摘する。

 

「われわれ人間と同じ能力がないから、人間以外の動物には倫理的責任はない」という主張は、まったく何の根拠もない人間による「人間以外の動物に対する優位性」という思い込みから生じている。この思い込みこそが、「人間例外主義」の本質であると著者は指摘する。【続く】

 

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【参考:過去記事】

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