[内容]
第2編 人間の支配をめぐっての善の原理による悪との戦いについて
第1章 人間支配への善の原理の権利主張について
a 善の原理の人格化された理念
・段落1 要約と注釈
・段落2 要約と注釈
・段落3 要約と注釈
・段落4 要約と注釈
文献
[段落1]
要約
世界を神の御心の対象とし創造の目的とする唯一のものは、「まったく道徳的完全性を備えた人間性」である。幸福は、最上制約としてこの完全性の最高存在者の意志に関する直接的結果である。(Ⅵ,60)
注釈
「道徳的完全性を備えた人間性」とは理性的世界存在者一般である。幸福は道徳的完全性を備えた理性的な最高存在者の意志に関する結果である。
[段落2]
要約
道徳的完全性の理想にまで「高まる」ことは、人間の普遍的な義務である。この理念は、それを追究するまでわれわれが「高まる」よう力を与えてくれる。理念の方が、われわれの中に住むようになった。人間本性がこの理念に感受性を持ち得たことから、この理念の創始者はわれわれに理解できない。この原像は、天からわれわれのところに「降りてこられた」。(Ⅵ,61)
注釈
道徳的完全性の理想まで高めることは、人間の普遍的な義務である。「道徳的完全性」という理念が、われわれの中に入り込んだ。ただしこの創始者は、われわれの理解を超える。この「原像」が天からわれわれのところに降りて来た。
[段落3]
要約
神意に適う人間性という理想を、われわれはある人間の理念の下でしか考えることができない。それは人間のあらゆる義務を自ら実行すると同時にできるだけ広範囲に渡って、自分の周囲に善を広めてゆくだけではない。この上なく大きな誘惑に試みられながらも、限りなく屈辱的な死に至るあらゆる受苦を世界の最善のために進んで引き受ける人間の理念である。(Ⅵ,61)
注釈
「神意に適う人間性」という理想を、われわれ人間は自らの理念の下でしか考えられない。われわれは大きな誘惑にかられながらも、世界の最善のためにあらゆる困難を自ら進んで引き受ける。
[段落4]
要約
人間は「神の御子への実践的信仰」で神に嘉されるようになれるという、希望を持てるようになる。(Ⅵ,62)
注釈
「実践的信仰」によって「神に嘉されるようになれるという希望」が持てる人は、受難にさらされても変わることなく人間性の「原像」に従う。またその人だけが、「神に嘉される」のに相応しくはない対象でないと思う資格を持つ。
文献
Kant.I,1793(1794):Die Religion innerhalb der Grenzen der bloßen Vernunft(邦題:たんなる理性の限界内の宗教、『カント全集10』所収、北岡武司訳、岩波書店、2000年.).【続く】
※今回、要約した著作はアカデミー版カント全集からであり、要約に際してその巻数とページ数を記載した。