『独学大全』は、20万部(当時)を超えるベストセラーである。本書の目的は、「独学者を支え援護する」(p.8)ことである。
大学院(修士)を修了してから、20年近くが経過した。その後、どの研究機関にも所属せず、社会人として働きながら、時間や資金の制限がある中で、カント研究などを続けてきた。もちろん、誰にも強制されたわけではない。自分の興味や関心に従い、継続してきただけである。
このような経緯から、「独学大全」を手に取った。これまでの学習歴を振り返りながら、本書で学んだことを実践する意図で、カントの『たんなる理性の限界内の宗教』(以下『宗教論』と略記)に「段落要約」と「注釈」を付けてみた。
今回は、『宗教論』に「段落要約」と「注釈」を付ける学習法を通して、学んだことをまとめてみた。
[内容]
■『宗教論』に「段落要約」と「注釈」をつけてみて学んだこと
■『宗教論』に「段落要約」と「注釈」をつけた動機
■「段落要約」について『宗教論』で意識したこと
■「注釈」について『宗教論』で意識したこと
■まとめ
■『宗教論』に「段落要約」と「注釈」をつけてみて学んだこと
『宗教論』に「段落要約」と「注釈」をつけてみて学んだことは、次の3つである。
- 重要文献には「精読」が必要である。
- 哲学のような分野では「段落要約」と「注釈」は有効である。
- どの分野でも『独学大全』の技法は応用が利く。
議論を整理し、さらに新たな議論を積み上げる哲学の分野で「精読」は欠かせない。
『独学大全』に登場する「段落要約」と「注釈」は、哲学を学ぶ上で有効な技法であることを、実践してみて確信した。
【参考:要約と注釈㉑】
『独学大全』から学んだことを3点深掘りする前に、なぜ『宗教論』に対して「段落要約」と「注釈」を付けたのか、その動機について以下で述べる。
■『宗教論』に「段落要約」と「注釈」をつけた動機
『宗教論』は、「第四批判書」とも呼ばれ、自らの道徳哲学の枠組みをもって宗教のあるべき姿を論じている重要な書物である。『三批判書』と並ぶ、カント哲学の中で重要な位置を占める。
カント道徳哲学を学習してきた者にとっては、『宗教論』は避けては通れない書物である。しかし、これまで自分が行なってきた学習方法とは異なるアプローチを試みたいという気持ちが起こり、それが「段落要約」と「注釈」をつける学習法に繋がった。
そこで、『独学大全』の中で登場する「精読」の技法のひとつ「段落要約」(技法42)と「注釈」(技法44)を活用して、『宗教論』の理解に努めた。
次に、「段落要約」を行う際『宗教論』で意識したことについて述べる。
■「段落要約」について『宗教論』で意識したこと
『独学大全』では「段落要約」のポイントを4つ挙げている。
- 要約に取り組む文献と範囲を選ぶ
- 段落ごとに番号をつけていく
- 段落に合わせて、空欄を用意する
- 読んだ内容を要約して、空欄を埋める(p.522ーpp.523より)
『独学大全』を参考に、『宗教論』の「段落要約」で意識したことは、次の3点である。
- 『宗教論』の「段落要約」を、「第1編」と「第2編」に絞った。
- 段落ごとに番号を振り、読者を想定して読みやすい分量に区切った。
- 「要点」を精選し、短い文に整えた。
カントの文章は基本的に1文が長く、時には彼の主張を見失ってしまうことがある。そこで、彼の議論を丁寧に追うために、段落ごとに要約を作成した。
具体例や想定された反論などを極力省略し、彼が最も伝えたい「要点」を精選して、要約を作成した。
また、枝葉末節を除去し、長い1文を2文に分けて、文を短くまとめることで、カントの主張を整理するよう心がけた。
以上の作業を通して、独自の解釈や考えを排除するように気を配りながら、カントの主張ができる限り理解できるよう『段落要約』を行った。
続いて、「注釈」を付ける際『宗教論』で意識したことについて、以下で述べる。
■「注釈」について『宗教論』で意識したこと
『独学大全』では、「注釈」を次のように定義する。
注釈とは、釈(旧字「釋」)を注(つ)けることを言う。注は「一か所にくっつける」ことを、釈(釋)は「解く」「解きほぐす」ことを意味する。つまり語や文の意味を解説したものを、原文の該当箇所に結びつけることが注釈することである。(p.534)
『独学大全』では、「注釈」についてポイントを3つ挙げている。
- テキストを選ぶ。
- 重要な箇所・注意すべき箇所に印をつける。
- 注釈を書き込む。(p.534ーpp.535 より)
このポイントを参考に、実際『宗教論』の「注釈」で意識したことは次の2点である。
- 『宗教論』巻末にある「訳注・校訂注」や『カント事典』、その他書籍や論文などを参考にした。
- 理解した範囲で、自分なりの解釈を加えた。
カントの著作に取り組む場合、彼の問題意識を探ることが先決となる。そのため、前提とする命題や彼独自の「用語」を理解しなければならない。
初読ということで、『宗教論』で扱われている問題意識が何かを探ることに時間を要した。「段落要約」を行った上で、疑問に思ったことを調べたり、理解できなかった箇所は「とりあえず」独自の解釈を加えた。
『独学大全』でも述べられているように、「注釈はとても時間がかかる作業」(p.534)となった。しかし筆者の以下の言葉が、自分の作業を後押ししてくれた。
まずは「?」マークをテキストに残すぐらいの気構えでよい。これら疑問や不明点は、流し読みしていた時には、頭の中に浮かんではそのまま消えていったものだ。今やそれを書き残し、テキストという岩山に打ち込むハーケンにすることができる。(p.537 )
筆者によれば、最初は調べても解決しないことの方が多い。疑問や不明点の中で、いつか解決できればよしとする。その心構えでいた方が、長続きする。そして、「疑問を持つことや解決できないこと自体が自分の読みと読解力を成長させると信じて、作業を続けよう」と、筆者は独学者を励ましている。
この気構えで、『宗教論』の「注釈」を試みた。『宗教論』を読み返す度に疑問が解消されたり、また新たな疑問が湧いてくることもあるかもしれないが、それこそが独学の醍醐味であり、成長の機会と捉えることが大切だと筆者は考えている。
しかし、それは自らの「読みと読解力が成長した証」となるだろう。筆者の言葉を信じ、前進することで、日々の作業を前向きに捉えることができた。
■まとめ
以上、『宗教論』に「段落要約」と「注釈」をつけて学んだことは、次の3つであった。
- 重要文献には「精読」が必要である。
- 哲学のような分野では「段落要約」と「注釈」は有効である。
- どの分野でも『独学大全』の技法は応用が利く。
そして、『宗教論』に「段落要約」と「注釈」をつけた動機や意識したことを本文で述べた。
『宗教論』は、『三批判書』と並ぶカント哲学の重要書である。『宗教論』はもちろん重要であるが、『独学大全』も自分にとって「座右の書」となることは間違いない。【終わり】
↓公式副読本も手元に置きたい。↓
↓以下の書籍の訳注も参考にした↓