ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【第2回】ボランティア活動の倫理学 |「他人に対する不完全義務」とボランティア活動

 

 前回の記事で、厚生労働省を基にボランティア活動を定義し、近藤良樹のボランティア活動の特徴について検討した。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 ボランティア活動についてより深く考える上で、カントの「他人に対する不完全義務」での「親切」の例はヒントになり得る。『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』と略記)の中に登場する「親切」な行為を拡大化すると、ボランティア活動になり得ると考えられるからである。

 

 そこで、今回はカント「他人に対する不完全義務」の「親切」の例から、ボランティア活動を素描する。

 

[内容]

【第1回】ボランティア活動の定義およびその特徴

【第2回】「他人に対する不完全義務」とボランティア活動

【第3回】「定言命法」から考えるボランティア活動

 

「他人に対する不完全義務」とボランティア活動

 

 『基礎づけ』で、「他人に対する不完全義務」(※1)について考える際、カントは「親切」を例に挙げる。この箇所は、次のように要約できるだろう。

 

 「われわれが安楽に生活している時、他人が困窮しているならば、その困窮している人にわれわれは何も援助をしない」という「格率」が、普遍的法則としてなり得るかどうかについてカントは考える。

 

 確かに、この「格率」も普遍的法則として考えることは可能である。この「格率」を普遍的法則としてわれわれが受け入れるならば、われわれ自身とこの「格率」が衝突する。

 

 われわれには実際、人の助けを借りなければならない状況が出てくる。この「格率」を採用すると、われわれが困窮した場合、他人から援助を求める可能性を自ら奪う。それで、この「格率」を普遍的法則として意欲することはできない。以上の理由から、この「格率」は普遍的法則となり得ない。

 

【参考:過去記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 『基礎づけ』での「他人に対する不完全義務」のポイントは、次の2点である。

 

・「困窮している人にわれわれは何も援助をしない」という「格率」は、普遍的法則として考えることは可能である。

 ・われわれが困窮した場合、他人から援助を求める可能性を自ら奪うので、この「格率」を普遍的法則として意欲することはできない。

 

 このように、「困窮している人にわれわれは何も援助をしない」という「格率」は普遍的法則になり得ないとカントは斥け、その逆の「親切」という「格率」を普遍的法則として彼は採用する。

 

 「完全義務」と対照的に、「不完全義務」に該当する行為には具体的な方法や頻度は予め決まっていない。そのため「不完全義務」は「行為の格率に例外を許す」(Ⅵ,390)のではなく、「いつ・どのように」行えばよいのかを行為者自身に委ねる「活動の余地」を持つという解釈ができる。

 

 『人倫の形而上学』でも「不完全義務」は、「例外に対してある種一定の余地(latitudinem)を拒み得ない」(Ⅳ,233)と述べられている。完全義務と不完全義務の歴史的区別から考えて、小倉志祥も「活動の余地」を認めることは例外を許すことでないという解釈がカント的であるという立場をとる。(※2)

 

【参考:人倫の形而上学

 

 さて保護猫/地域猫活動などのボランティア活動に参加すると、「できるところから、自分のペースで行う」という言葉をよく聞く。

 

 一方で、熱心に取り組んでいる方々の中には、保護猫/地域猫活動は猫自体にとっても地域住民にとってもやる「べき」活動であると考える人もいる。そう考える方々は、自らの活動のために「啓発活動」を行う者もいれば、「地域猫」の見回りを積極的に行う者もいる。

 

 ボランティア活動として、保護猫/地域猫活動は行う「べき」活動であると考える一方、そこで何を重視するかは成員それぞれの考え方や生活様式などに応じて委ねられている。

 

 このように、カントも「親切」の延長線上にあるボランティア活動も「義務」としてやる「べき」だと考えるだろう。ただし、その方法や頻度については行為者に委ねられるとカントは判断するはずである。

 

 以上、本記事では次の2点を示した。

 

・ボランティア活動は「他人に対する不完全義務」である。

・ボランティア活動は「活動の余地」を持つ。

 

  さて、カント道徳哲学の鍵概念となる「定言命法」とボランティア活動との関連性はどうか。この問題に関して【第3回】で考察する。【続く】

 

(※1) カント「完全義務」と「不完全義務」について、詳細は以下の記事を参照。

chine-mori.hatenablog.jp

(※2)「不完全義務」の「活動の幅」の解釈について、以下の文献を参照。

 

【次の記事】