入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストに、マイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)を訳出する。今回は第26回である。
【前回の記事】
最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。
[内容]
■原文
■単語と文法事項の確認
■私訳
■本書の訳
■私訳と本書の訳の比較
■原文
So you might say that ancient theories of justice start with virtue, while modern theories start with freedom. And in the chapters to come, we explore the strengths and weaknesses of each. But it's worth noticing at the outset that this contrast can mislead.
■私訳
現代の理論は自由から出発する一方で、古代の正義理論は美徳から出発すると言えるかもしれない。後の章で述べるが、それぞれの長所と短所をわれわれは探究する。しかしまず始めにこの対比は誤解を招き得ることは注目に値する。
■本書の訳
すると、正義に関する古代の理論は美徳から出発し、近現代の理論は自由から出発するのだな、と思われるかもしれない。この先の章でそれぞれの見方の強みと弱みを探っていく。だがこの対比が人を惑わすかもしれないことは、最初に押さえておいたほうがいい 。(p.29)
■私訳と本書の訳の比較
数行の短い段落である。私訳と本書の訳では、違いが3つある。1つは"modern"、2つ目は”notice"そして3つ目は"it's worth ~ing”の訳し方である。
始めに、"modern"である。この単語は、辞書的には①現代②近代両方の意味がある。私訳では①の意味をあてたが、本書の訳では「近現代」として①②両方の意味をあてている。前段落の文脈から、「近現代」と訳した方が適当だろう。
次に、”notice"である。本来は「気づく」や「分かる」という意味である。辞書に忠実に訳すと、日本語としてなかなか上手くつながらない。私訳では、「注目する」と訳した。一方、本書の訳は「押さえる」である。この違いは、なかなか興味深い。
最後に、"it's worth ~ing”である。"it"は、以降のthat節を指す。 すなわち、"that this contrast can mislead"である。ちなみに、 ”this contrast”とは古代と近現代の「正義理論」(theories of justice)を指す。文法的に、"it's worth ~ing”は「○○に値する」と訳すべきである。私訳はそこを忠実に守った。一方、本書では「○○しておいたほうがいい」と訳している。
文法に則り辞書などを参考にしながら、訳すことも大切かもしれない。そこを越えて、前後の脈絡を考えながら筆者の意図を汲み取るような訳も必要であることが分かった。【続く】
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【参考文献】