ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【私訳#27】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

 

 入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストに、マイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)を訳出する。今回は最終回の第27回である。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

For if we turn our gaze to the arguments about justice that animate contemporary politics - not among philosophers but among ordinary men and women- we find a more complicated picture. It's true that most of our arguments are about promoting prosperity and respecting individual freedom; at least on the surface. But underlying this argument, and sometimes contending with them, we can often glmpse another set of convictions- about what virtues are worthy of honor and reward, and what way of life a good society should promote. Devoted though we are to prosperity and freedom, we can't quite shake off the judgmental stand of justice. The conviction that justice involves virtue as well as choice runs deep. Thinking about justice seems inescapably to engage us in thinking about the best way to live. 

 

■単語と文法事項の確認

・gaze:注視 

・animate:活気づける 

・prosperity:繁栄 

surface:表面 

・underly:表面下にある 

・contend with A:Aと議論する 

・glmpse:チラリと見える 

・conviction:信念 

・devote:熱愛する 

・prosperity:繁栄 

・shake off:振り払う 

・judgmental:独善的に早急な判断をする 

・engage:引きつける 

 

■私訳

というのも、われわれが現代政治-哲学者の間ではなく普通の男女間での-を活気ある正義についての議論に目をやると、われわれはより複雑な図柄を発見するからである。われわれのほとんどの議論は繁栄を促進したり個人の自由を尊重したりすることに関するかもしれない。少なくとも表面上は。しかし水面下にある議論、そしてそれらと時々対立することによって、別の信念、すなわちどの美徳が名誉や報酬に値するか、そしてどんな生き方を適切な社会が促進するべきかについてわれわれは垣間見ることがよくある。われわれは繁栄や自由を熱愛するが、独善的に早急な判断をする正義の立場を振り払うことはどうしてもできない。正義は選択と同じく美徳を含むという信念は深みが広がっていく。正義について考えることは最もよい生き方について考えることの中にわれわれを不可避的に引きつけることになるだろう。 

 

■本書の訳

というのも、現代政治を動かしている正義論ー哲学者ではなく普通の男女が戦わせている正義論ーに目を向ければ、もう少し複雑な絵柄が見えてくるからだ。たしかに、われわれの正義論の大半は経済的繁栄の促進と個人の自由の尊重に関するものである。少なくとも表面上はそうだ。だが、これらの議論の根底に、しばしばそれと対立する形で、別種の信念ーどんな美徳が名誉や報奨に値するか、良い社会ではどんな生き方が推奨されるべきかに関わる信念ーが垣間見えることも多い。経済的繁栄と自由を愛するいっぽうで、われわれは分別に関わる正義の要素をすっかり振り落としてしまうことができない。正義には選択だけでなく美徳も含まれるという信念は深く根を下したものだ。正義について考えようとすると、われわれは否が応でも最善の生き方について考えざるをえないようだ。(p.30)

 

■私訳と本書の訳の比較

前段落で、サンデルは次の2つの立場について検討している。

 

古代ギリシアアリストテレス的立場

②近現代のカントやロールズ的立場

 

 ②の立場に立つと、現代の「正義論」(the arguments about justice)は「経済的繁栄の促進と個人の自由の尊重」(promoting prosperity and respecting individual freedom)に関わるものが大半である。

 

 一方、サンデルはそれだけではないと論じる。すなわち、①の立場も「正義論」の中に深く根ざしているのである。「正義」について考えると、「最善の生き方」(the best way to live)について考えざるを得ない。【終わり】

 

【参考文献】