ネコと倫理学

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【第1回】飼い猫のひみつ|ネコ好きなら知っておきたい!「飼いネコ」誕生の歴史【ネコ学】

 

 本ブログの目標のひとつは、「動物倫理学」を軸にわれわれ人間と「伴侶動物としてのネコ」との関わりについて考えることである。

 

 この目標を達成する方法として、これまで様々な本や論文などを参考に「動物倫理学」全般について扱ってきた。

 

 一方、「伴侶動物」としての「ネコ」の行動や思考などについて言及することはなかった。

 

 ということで今回、本書に沿って2回に渡り、われわれの身近にいる「ネコ」の歴史や習性を紐解いていく。

 

 その第1回目として、今回は人間と「ネコ」との関係性について彼/彼女たちの歴史を通して検討する。

 

 この作業を通して、いつからそしてなぜわれわれ人間と「ネコ」が親密な関係になっていたのか、その経緯や理由を明らかしていく。

 

[内容]

■本書の目的

■「イエネコ」のルーツ

■「ネコ」が人に歩み寄った理由

■まとめ

 

■本書の目的

 本書の目的は、「現時点で考え得るネコの新説を紹介する」ことである。本書を読めば、「飼いネコ」誕生の秘密やその実態に迫ることができる。

 

 筆者によれば、「ネコ」の歴史や生態を研究する「ネコ学」について、新事実が徐々に発見され進展を見せている。

 

 例えば、子ネコの子育てにオスも参加していた事例が見つかっている。

 

【参考:世界初の発見!猫に「イクメン」がいた! 子猫を他のオスから守る父親の戦いに感動】

www.j-cast.com

 

 一方、「ネコ学」を発展させるために事実に基づいた「仮説」を立てることは大切である。

 

 「仮説」がないと、学問は発展しない。将来「仮説」が誤りとなるにしても、打ち立てることに意味がある。

 

 このように、最新の知見や「仮説」などを紹介しながら、本書はわれわれに身近な「ネコ」の生態に迫っていく。

 

■「イエネコ」のルーツ

 「ネコ」の祖先は、「リビアヤマネコ」である。「リビアヤマネコ」を飼い慣らしたものが、「イエネコ」になった。

 

【参考:リビアヤマネコ

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写真: ウィキペディアWikipedia

 本来「種」として「リビアヤマネコ」は、「ヨーロッパヤマネコ」に含まれる。「リビアヤマネコ」は、「ヨーロッパヤマネコ」の亜種である。

 

 「ヨーロッパヤマネコ」の亜種は、単に「リビアヤマネコ」だけではない。特にヨーロッパ産と比較して、北方系や熱帯系に棲む「ヨーロッパヤマネコ」は極めて特徴的な外見をしていた。

 

 北方系は、体ががっしりしていて体を覆う毛は厚い。顔面は、かなり短縮している。耳、四肢そして尾は短い。

 

【参考:ヨーロッパヤマネコ】

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写真:ウィキペディアWikipedia


 一方、熱帯地方に分布する種類は顔面が長い。耳は長く、先端が尖っている。毛は、短く艶がある。尾は、長く四肢は細い。

 

 さて、「ヨーロッパヤマネコ」の亜種は5つに分類される。

 

・ヨーロッパヤマネコ:ヨーロッパに分布する基亜種
リビアヤマネコ西アジアからアフリカ北部に分布
・アフリカヤマネコ:アフリカ南部に分布
・ステップヤマネコ:中央アジアからアフガニスタンに分布
・ハイイロネコ:ゴビ砂漠に分布

 

 ただし、気候変化や棲息地が農耕地や牧場に変わったことなどによって、これら「ヨーロッパヤマネコ」は、西部・中部ヨーロッパから姿を消した。

 

■「ネコ」が人に歩み寄った理由

 「イエネコ」が人間に歩み寄った鍵は、人類の「農耕」と「定住」の歴史にある。

 

 人間が定住に成功する直前の約1万5000年前、中東イスラエルのヨルダン渓谷にある古代ナトゥーフに元々棲んでいた小型の2種の野生ハツカネズミ(ヨウシュウハツカネズミ・マケドニアハツカネズミ)が、人類の定住地で栄え始めた。

 

【参考:古代ナトゥーフ】

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図:ウィキペディアWikipedia

 

 理由は、人類が1ヶ所に定住したことで食べこぼしなどのおこぼれを頂戴できると、ネズミたちは学習したからである。

 

 人をあまり怖れない「ヨウシュハツカネズミ」は、住家性に変わった。一方、野生を好んだ「マケドニアハツカネズミ」は、住居の近くで暮らした。

 

 定住を始めて数千年、人類は「翌年まく種子を貯蔵すること」を学ぶ。

 

 それにも関わらず、家の中や貯蔵庫では住家性の「ヨウシュハツカネズミ」に、畑では「マケドニアハツカネズミ」双方の害に悩まされ続けた。

 

  この時期、無数に繁栄してたハツカネズミを獲物として人間社会に近づいてきたのが、「リビアヤマネコ」だった。

 

 「ネコ」は、人家やその周辺からネズミという恩恵を得ることを学習し、人の側から離れようとしなかった。

 

 人類が「リビアヤマネコ」を歓迎したことは、想像に難くない。「ネコ」は、貯蔵してある穀物を守ってくれる存在だった。

 

 ところで、2004年あるフランス国立科学研究所チームが、ネコと人類の共生の謎に迫る化石を発見した。その記事が、4月8日付け米科学誌『サイエンス』に掲載された。

 

 地中海キプロス島にある約9500年前の墓から、人と一緒に埋葬されたネコの骨が、ほぼ完全な形で発見された。この9500年前の化石は、ネコと人の歴史を揺るがす大発見だった。

 

 埋葬されたネコは、全長約30㎝で推定年齢は生後約8ヶ月のネコだと見られる。調査によれば、ネコに外傷はなく、乱暴に殺害された痕跡もなかった。小さな墓穴を掘って、丁寧に埋葬されたと見られている。

 

【参考:ネコのペット歴、9500年前から キプロス島に「墓」(朝日新聞) 】

 地中海の島国キプロスで発見されたネコの骨から、人類は約9500年前にすでにネコを飼っていたらしいことが分かった。ネコのペット歴はこれまで約4000年しかさかのぼれず、イヌに大きく水をあけられていたが、一挙に5000年以上差を詰めた。仏国立科学研究センターなどのチームが、9日付の米科学誌サイエンスで発表した。

 骨は新石器時代の遺跡で出土した。人の墓から約40センチしか離れていない約9500年前の同じ地層に、小さな穴が掘られて、ネコ1匹の骨が埋まっていた。いまのイエネコより一回り大きいアフリカヤマネコに近い種類で、形が乱れていないことから、死後すぐに埋められたとみられる。

 年代は日本では縄文時代にあたる。研究チームは「農耕が始まり、穀物を狙うネズミを退治してくれるネコが重宝されるようになった」とみる。ネコが人に飼われていた古い物証はこれまで、紀元前18~20世紀のエジプト王朝時代の壁画などしかなかった。(『朝日新聞』2004年4月9日 引用)

 

 キプロス島には元々、野生のネコ科動物は分布していない。ということは、外部から人間が「ネコ」を持ち込んだことが考えられる。

 

 研究チームは、「このネコが飼い慣らされたとは断定できないが、当時既に人とネコが特別の関係を持っていたのではないか」と推測した。

 

 大切に埋葬されたことから考えると、「野ネズミを追い払うなど農業の役畜以上に、より精神的シンボルとしてかわいがられていたのではないか」と述べている。

 

 筆者によれば、1万年前に定住によって「ネコ」が家畜化されていたならば、9500年前に「ネコ」と人間が深く関わり合っていたことも十分考えられる。

 

 ネズミを退治するというビジネス的な付き合い方だけでなく、精神的に密接な絆を持って「ネコ」は人間と暮らしていたと、筆者は推測する。

 

■まとめ

  本書を通して、次の2点が明らかになった。

 

・「イエネコ」のルーツは「リビアヤマネコ」である。

・「ネコ」が人に歩み寄った理由は人家やその周辺からネズミを得るためである。

 

 人家やその周辺からネズミという恩恵を得るため、人に歩み寄った「イエネコ」のルーツである「リビアヤマネコ」が、9500年前から精神的に密接な絆を持って「ネコ」は人間と暮らすことになる。

 

 現在でも、人間と「ネコ」は親密な関係にある。「ネコのルーツ」を探ることで、彼/彼女らと、より親密な関係をわれわれは築けるようになるかもしれない。【続く】

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

【参考文献】