前回の記事で、『令和元年度 事業概要』(沖縄県動物愛護管理センター)(※1)から沖縄県全体の「収容猫頭数」及び「収容猫の措置頭数」の「殺処分数」は、共に減少傾向にあることが読み取れた。
【参考:過去記事】
さて、久米島町の現状はどうか。【第2回】では『令和元年度 事業概要』から久米島町の実態について分析し、その課題に対する提言を行う。
[内容]
【第1回】沖縄県全体の実態
【第2回】久米島町の実態
【第2回】まとめと提言
■ 久米島町の実態
・県内の猫の収容および措置状況(令和元年度)
上のデータは、『令和元年度 事業概要』を基に作成した「県内の猫の収容および措置状況」(令和元年度)である。
上の表からも分かるように、県内で「猫の収容および措置」に直接関わっている施設は3ヶ所ある。つまり沖縄本島にある「動物愛護管理センター」、宮古島市の「宮古島保健所」、そして石垣市にある「八重山保健所」である。
同じ離島である宮古島市や石垣市に対して、久米島町には「猫の収容および措置」を直接扱う施設が存在しない。
この表から「地域猫/保護猫活動」に関して、沖縄県の他の地域と比べ久米島町は不利な環境にあることが分かるだろう。
・猫に関する依頼・相談・苦情件数(沖縄県離島市町村)(令和元年度)
上のデータは『令和元年度 事業概要』の沖縄県全市町村の中から、沖縄県離島市町村に絞って作成し直したものである。
上の表からも分かるように、沖縄県の他の離島地域と比較して久米島町は「猫に関する依頼・相談・苦情件数」が断トツ1位である。
宮古島市は、令和元年度の「猫に関する依頼・相談・苦情件数」は合計10件である。また石垣市は、合計113件である。それに対して、久米島町は合計357件である。その件数は、2位の石垣市の3倍を超える。
■まとめと提言
以上、2回に渡り「地域猫/保護猫活動」について沖縄県全体と久米島町の実態をデータで検討し考察を行った。『令和元年度 事業概要』から、沖縄県全体として「収容猫頭数」及び「収容猫の措置頭数」の「殺処分数」は、共に減少傾向にあることが読み取れた。
一方、久米島町に注目すると、同じ離島である宮古島市や石垣市に対して久米島町には「猫の収容および措置」に直接関わる施設が存在しない。また「猫に関する依頼・相談・苦情件数」が、県内他の離島地域の中で1位である。
別の見方をすれば、「猫に関する依頼・相談・苦情」について住民からのニーズが明らかに存在するものの、それに応える体制が十分備わっていないことは明らかだろう。
沖縄県動物愛護管理センターによれば、久米島町役場の「福祉課」が本島にある「南部保健所」と連携を図りながら、「猫に関する依頼・相談・苦情」への対応を行っているようである。
ただ、どの程度本島の施設と連携を図り成果を上げているか定かではない。
結局、「地域猫/保護猫活動」に関して、久米島町では「球美にゃんこ亭」のような保護猫カフェや地道に活動を継続しているボランティアの方々が、重要な役割を果たしていることが実態である。
しかし、町内でボランティア活動をされている方々の力だけでは限界がある。だからといって「猫の収容および措置」に直接関わる施設を新たに建設し、職員を配置することは現実的でないような気がする。
この現実を踏まえ、「地域猫/保護猫活動」を町内に根付かせるため、筆者は次の2点を提言する。
・行政と町内のボランティアの方々との連携強化を図る。
・住民を対象とした地域猫活動への啓発活動を実施する。
具体的方策のひとつとして、例えば猫の生態や正しい飼育方法そしてTNRやTNTAなど地域猫活動に関するパネル展示を、久米島町役場内で期間限定で実施する。
行政と町内のボランティアの方々が共に取組み、住民を対象とした啓発活動に取組む。様々な方法はあると思うが、行政と住民が共に行う取組みの中で最も手っ取り早い方法ではないだろうか。
動物愛護の視点で、「地域猫/保護猫活動」は語られることが多い。それだけでなく、「地域猫/保護猫活動」は「住民運動」のひとつであるという視点も忘れてはならない。
なぜなら、「ソト猫」に関して住民同士のトラブルはよく発生するからである。「ソト猫」に関するトラブルを地域全体で解決することで、住民同士が気持ちよく日常生活を送れるようなる。
同様に「地域猫/保護猫活動」の活性化によって、その地域に住む「ソト猫」たちも気持ちよく過ごすことができることが期待される。
猫は「伴侶動物」として人間に近寄ってきて、人間の近くで生活するようになったという歴史的背景がある。
【参考:過去記事】
齋藤(2018)によれば、猫は対ヒト社会的認知能力が高く「共同保育」など猫同士の社会的行動も見られる(※2)。
動物行動学や動物倫理学の分野で未だ研究の余地はあるが、猫の歴史的背景や社会的行動から考えると、われわれとは別の社会的存在ではあるが、「ソト猫」を含む猫も同じ地域に住む「住民」として受け入れてもいいのかもしれない。
猫も人間も同じ「住民」として気持ちよく地域の中で過ごすため、「共助」と「公助」を活用した「地域猫/保護猫活動」が求められる。その先に、人間も人間以外の動物も共に居心地のよい地域社会が実現するだろう。【終わり】
(※1)沖縄県動物愛護管理センターによれば、『令和2年度 事業概要』の準備が進行中。2022年3月中には公開予定。詳しくは次を参照。沖縄県動物愛護管理センターhttps://www.aniwel-pref.okinawa/others/view/1
(※2)齋藤慈子,2018:なぜネコは伴侶動物になりえたのか 比較認知科学的観点からのネコ家畜化の考察、『動物心理学研究 68』所収、日本動物心理学会、2018年. https://www.jstage.jst.go.jp/article/janip/68/1/68_68.1.8/_pdf/-char/en
県の地域猫活動団体について以下の過去記事も参照
【参考:過去記事】
●「対策」としての「地域猫活動」というコンセプトが参考になる。
【参考文献:キャット・ウォッチング】
●疑問や質問を通して猫の行動や生態について詳しく書かれたエッセイ。写真は岩合光昭氏。解説を佐藤優氏が担当。