ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【第1回】ボランティア活動の倫理学|ボランティア活動の定義およびその特徴

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【写真】某所での地域猫活動の様子

 

 これまで本ブログで「動物倫理学」の考察に加え、保護猫/地域猫活動を通して猫とわれわれ人間の倫理的関わりについて発信してきた。

 

【参考:過去記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 一方、保護猫/地域猫活動など地域活動を行う側の態度やそのあり方について考えたことはなかった。保護猫/地域猫活動も、ボランティア活動の一部である。このように考えるのであれば、ボランティア活動を行う側の倫理的態度やあり方を整理する必要が生じる。

 

 この動機の下、倫理学の中でも未開拓な「ボランティア活動の倫理学」について試論を述べる。学習すべきことや考えるべき課題もあるが、読者と共に考えていきたい。

 

[内容]

【第1回】ボランティア活動の定義およびその特徴

【第2回】「他人に対する不完全義務」とボランティア活動

【第3回】「定言命法」から考えるボランティア活動

 

■ボランティア活動の定義およびその特徴

 

 まず、ボランティア活動の定義について確認する。厚生労働省のホームページによれば、ボランティア活動は次のように定義できる。(※1)

 

 ボランティア活動は個人の自発的な意思に基づく自主的な活動であり、活動者個人の自己実現への欲求や社会参加意欲が充足されるだけでなく、社会においてはその活動の広がりによって、社会貢献、福祉活動等への関心が高まり、様々な構成員がともに支え合い、交流する地域社会づくりが進むなど、大きな意義を持っています。

 

 ボランティア活動とは、「個人の自発的な意思に基づく自主的な活動」である。厚生労働省によれば、「自発的な意思」に基づいた「自主的活動」がポイントとなる。続いて、厚生労働省は次の3点をボランティア活動の意義として挙げる。

 

・活動者個人の自己実現への欲求や社会参加意欲が充足される

・社会貢献、福祉活動等への関心が高まる

・様々な構成員が共に支え交流する地域社会作りが進む

 

 ボランティア活動は「個人の自発的な意思に基づく自主的な活動」であり、3つの意義を持つことが確認された。

 

 一方、近藤良樹はボランティアの特徴を次の4つに整理する。(※2)

 

・「無料」(無報酬・無給)である

・自発的な自由意志が大切になる

・「勤労」の奉仕である

・恵まれた者が恵まれない者に「奉仕」する

 

 近藤によれば、ボランティア活動を通して賃金などを超越した自己の創造的能力を満たし充実した生を展開し、社会に貢献することで参加者は満足できる。ただし無給であっても、無理やりに強制されたものである場合、その行為は強制労働であってボランティアとはならない。

 

 ボランティアである条件として、自発的参加という各個人の「自由意志」(voluntas)が踏まえられる。その自発的意志に端を発することにより、無報酬の勤労内容も強制労働などとは異質の生きがいのある充実した活動に昇華される。

 

 また、ボランティアなどの自発性が真に各人の自発性となるには「しない自由」という「任意性」に裏付けられる。ボランティアの対象は、「恵まれない者」である。「恵まれた者」が、経済的に恵まれない人たちや社会的弱者と言われる「恵まれない者」に「奉仕」することが、ボランティア活動である。

 

 補足すべき点として、余暇・休暇など時間に「恵まれた」状況が、ボランティア活動に必要であることを近藤は強調している。生活するための給与や資金が十分にあって、余剰の時間がなければ、活動はままならない。ボランティア活動を行う者には、生活資金以上に十分な時間が必要であると彼は捉えている。

 

 しかし、近藤のボランティア活動への理解は十分ではない。なぜなら、近藤はボランティアの対象を「人のみ」で捉えているからである。つまり、彼のボランティア活動の対象から「動物」や「自然環境」が抜け落ちている。

 

 近藤の具体的事例で挙げられているのは、地域の「ゴミ拾い」や「祭り・行事」の運営などである。休暇や余暇の時間を活用して、住民と協力しながら地域の「ゴミ拾い」を行ったり、依頼されて「祭り・行事」を一緒に盛り上げるというボランティアのイメージを彼は思い描いている。

 

 経済的に恵まれない人たちや「社会的弱者」と言われる人たちは、もちろんボランティアを受ける対象になり得る。また仲間と共に活動することは、ある種の一帯感や連帯感が生まれるのは事実である。しかし、犬猫などのいわゆる「モノが言えない動物たち」や森林や海など自然環境も対象に含めてもよいだろう。

 

 実際、「地域猫活動」の対象は地域で生活する猫が主な対象である。また「ビーチクリーン」などの活動は、「キレイな海」を対象とする。

 

 さて、ボランティア活動についてより深く考える上で、カントの「他人に対する不完全義務」がヒントになるだろう。

 

 次回はカント「他人に対する不完全義務」からボランティア活動を素描していきたい。【続く】

 

(※1) 引用:厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/volunteer/index.html

(※2) 参照:近藤良樹「勤労としてのボランティア」(「ボランティアの哲学的分析(論文集)」所収)
https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/2/21046/20141016140133744449/Volunteer_kondo_yoshiki.pdf

 

【参考文献】

近藤良樹,2007:ボランティアの哲学的分析(論文集)、広島大学学術情報リポジトリ広島大学文学研究科、2007年.
https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/2/21046/20141016140133744449/Volunteer_kondo_yoshiki.pdf

 

【次の記事】

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