ネコと倫理学

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【第3回】動物倫理入門| 「人間例外主義」では言語を使用しない人間が配慮の対象にならない【動物倫理学】

動物倫理入門

動物倫理入門

 

 

[内容]

 ■【第1回】本書は「人間例外主義」批判に基づく入門書

■【第2回】「人間例外主義」とは人間は動物に対して倫理的責任がないという立場

■【第3回】「人間例外主義」では言語を使用しない人間が配慮の対象にならない

■【第3回】まとめ

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

■「人間例外主義」では言語を使用しない人間が配慮の対象にならない

 

 「人間例外主義」を支持する理由の中に、言語を使用する能力が挙げられる。われわれ人間は、他の動物と違い言語を使用できるとされる。一方、他の動物は言語を使用する能力が限定的である。だから、われわれ人間は他の動物への倫理的配慮に責任を持たなくてもよい、という主張が成立するのだろう。

 

 しかし、著者の立場に即して考えると、この理由が「人間例外主義」という考え自体に矛盾を生じさせることになる。なぜなら、人間すべてに言語を使用する能力があるわけではないからである。

 

 言語の使用を理由に、「人間例外主義」の立場を採用するのであれば、言語能力に障害がある人や事件や事故などで言語によって意思疎通ができない人も、道徳的配慮の対照から除外されることになる。

 

  そもそも言語の使用は、なぜ重要な能力なのか。言語は倫理規範や期待を作り出したり、伝達するのに役立つ。また言語は倫理規範を教えたり、違反を正す手段にもなり得る。言語使用の重要性について考えると、確かに言語の使用は人間だけが道徳的配慮に値することを示す能力なのかもしれない。しかし、人間すべてに言語の使用能力があるわけではない。

 

 筆者も主張するように、もしも道徳的に配慮すべき存在という分類の境界が単に言語使用者やその周辺だけに引かれるのであれば、言語を使用しない人間も道徳的配慮の対象から外れることになる。

 

 言語を使用しない人間が道徳的配慮の対象から除外されるという考え方は、彼らが搾取されたり殺されたりすることを容認することにつながるかもしれない。筆者が主張するのは、言語を使用できない障害者だけでなく、意思疎通ができない人々に対しても倫理的責任があるということである。つまり、言語を使用できない人々を含む、すべての人々に対して、道徳的配慮が必要であるということである。

 

 例えば、何かの事件や事故などで助けが必要な人が意識を失っていたり発達した言語能力を持っていなかったりするために、コミュニケーションが行われない場合がある。

 

 それでも救助することが正しく英雄的なのは、事件や事故に巻き込まれた人物が言語を使用できるからではない。何か別の理由があるはずである。

 

 このように考えると、われわれは道徳的配慮の必要条件として言語使用を考えることはできなくなる。

 

 以上、筆者に即して考えると、言語使用が必ずしも道徳的配慮の基準ではなくなる。

 

 われわれ人間の中にも、言語能力が始めから欠如していたり何らかの理由で言語を使用できなくなる状況が考えられる。

 

 事件や事故などに巻き込まれ、何らかの理由で言語が使用できなくなったからといって、必ずしも道徳的に配慮しなくてもよいということにならない。このようなことは、人間以外の動物にも同じようなことが言える。

 

■まとめ

 言語の使用以外にも、道具を使用する能力や協力行動など人間と他の動物を分ける理由は数多くあるだろう。ただし、これらは人間すべてが持つ能力ではない。

 

 能力差はあるにせよ、他の動物も人間と同じような能力を持つ場合がある。一方、人間もすべてがまったく同じように言語能力を持っているわけではない。

 

 筆者も主張するように、「人間例外主義」の目的が人間だけを道徳的に配慮すべきだという理解に基づいた場合、障害者や言語による意思疎通ができない人、事件や事故で意識を失った人など、われわれ人間の中で弱い人々を見落としてしまうことになる。

 

 われわれ人間も、他の動物と同様に優れた能力を持っている。一方で、他の動物も人間と同様に素晴らしい能力を持っている。そのため、他の動物を人間ではないという理由だけで道徳的配慮の対象から除外することは、偏見以外の何ものでもない。

 

 以上、『動物倫理入門』での筆者の立場に基づくと、人間が特別な存在であるという「人間例外主義」は、他の動物と比較して人間が持っている特定の能力に基づいて道徳的配慮をすることを正当化するものであり、この考え方は擁護できないと結論づけられる。【終わり】