ネコと倫理学

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【教育倫理学】学校におけるケアの挑戦|「ケアリング」と「継続性」

 

 もし教育が人生における幸福を目的とするのであれば、学校教育はその目的を実現するために「ケアリング」を中心に再構成される必要があるだろう。

 

 既存の学校教育に異を唱え、カリキュラムだけでなく学校組織そのものを「ケアリング」の視点で再評価することを、ノディングズは本書で提唱する。

 

 これが、本書の一般的見方である。今回は、ノディングスの「ケアリング」と「継続性」について考察する。

 

 彼女によれば、「ケアリング」で必要なことは「継続性」である。この見解を本書から読み解いていく。

 

■本書の概要

 まず始めに、本書の概要を確認する。「編者序文」によれば、ノディングスは教育の目的を次のように掲げている。

 

 教育の主な目的は道徳教育によってケアし、愛される能力ある個人の成長を育むことである。(邦頁 3 要約)

 

 ここでポイントとなるのは、次の2点である。

 

・教育は道徳教育によってなされる。
・教育はケアし、愛される能力ある個人の成長を育むことである。

 

 これが、ノディングスの言う「ケアリング」を中心に再構成された学校教育である。この目的のため、彼女はケアの中心を以下8つに整理する。

 

・自己のケア
・親しい他者へのケア
・仲間や知人へのケア
・遠方の他者へのケア
・人以外の動物へのケア
・植物と自然環境へのケア
・物や道具など人が作り出した世界へのケア
・理念のケア

 

 本書は、上記8つのケアについて述べ、最後に学校で行える実践的な「ケアリング」を提示する。

 

■「ケアリング」と「継続性」

  本書で「ケアリング」で必要なことは、「継続性」であることを彼女は強調する。

 

 学校の第1の指導目的は継続性とケアリングの風土を確立し維持してくことでなければならない。教育でのケアリングは強い信頼関係を土台部分にするという意味で、一時的なケアリングの出会いと異なる。そのような関係には時間がかかり継続性が必要になる。(邦頁127 要約)

 

 彼女によれば、学校の第1の指導目的は「継続性とケアリング」の風土を確立し維持することであり、そのため、教科指導であっても生徒指導であっても、教師と子どもたちとの強い信頼関係が土台となる。生徒との関係は一朝一夕では成立しない。教師と子どもたちとの信頼関係には時間がかかり、「継続性」が必要になる。

 

 一方、現実的に教師は子どもたちの行動の変容を急ぐあまり、間違った指導を行うこともある。それが、体罰などによって子どもたちを追い詰めることにもなりかねない。

 

 この点を考慮すると、ノディングスの「ケアリング」的な生徒との関わりの中で「継続性」が必要になることは理解できる。「継続性」について、彼女は次のような提案を行う。

 

 ケアがなされる共同体を築くために、生徒には学校の居場所の継続性が必要になる。生徒は2、3年以上ひとつの校舎に留まるべきである。子どもたちは建物に住み慣れ、物理的な環境に責任を持つようになり、ケアのなされる共同体の維持に参加するための時間が必要である。限られた年齢層を対象とした非常に専門的プログラムと場所の継続性のどちらか選択しなければならないとき、場所の継続性を選択するべきである。(邦頁131 要約)

 

 専門的プログラムと場所の継続性のどちらか選択しなければならないとするならば、場所の継続性を選択するべきである、と彼女は主張する。

 

 確かに、何年も通い慣れた学校には愛着がわき、その一員として誇りを持つようになる。卒業すると、学校で学んだことや思い出が糧となる生徒も出てくる。これは、学校や教師と子どもたちの継続的な関係性によって起こる現象である。

 

 さらに、「継続性」について彼女はそのための「計画」を読者に提示する。まとめると次の通りである。

 

1.目的の継続性
・第1目的はお互いのケアであることが明白であること
・生徒すべてが①人間のケアリングの不可欠な問題に取り組むこと②ケアの専門領域で特定の能力を発達させること

2.学校の居場所の継続性
・属しているという感覚を得られる必要な期間ひとつの校舎に留まるべき
・コミュニティが優先されれば、より大きな学校でもコミュニティの感情を生み出すことは可能
・子どもたちは3年以上、理想は6年間同じ場所にいるべき

3.教師と生徒の継続性
・教師は生徒と3年以上一緒に過ごすべき

4.カリキュラムの継続性
・われわれのケアを示し人間の全領域を尊重することが理念
・多様で等しく権威ある専門プログラムを提供する

 

 このように、4つの「継続性のための計画」を示し、「ケアリング」には「継続性」が大きく関わることを彼女は示した。

 

 ■まとめ

 以上、学校での「ケアリング」には「継続性」が必要であることを彼女は主張した。

 

 ノディングスの「ケアリング」という概念を学校現場に取り入れることで、教師と子どもたちがお互いにケアし合い、愛情に満ちた人間関係を築き、愛される人間に成長することができる。

 

 学校現場では、教育実践が重視されがちだが、理論と実践は相互補完的な関係にある。ノディングスの「ケアリング」のような理論を現場で実践することで、学校や教師は生徒のよりよい成長を支援できるようになる。【終わり】

 

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