ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【第1回】動物倫理入門| 「人間例外主義」批判に基づく入門書【動物倫理学】

 

 本書を手にしたきっかけは、「動物倫理学」を体系的に学び直したいという動機からであった。

 

功利主義」や「権利論」など、動物倫理の基礎理論が本書で簡潔に整理されていた。また、「肉食の倫理」や「動物実験の是非」などの個別的問題についても、考察できる章立てがなされている。翻訳も読みやすく、これまで読んできた入門書の中でも理解しやすい部類に入る。

 

 ただし、一般的な入門書と異なる点は、本書が「人間例外主義」(human exceptionalism)を批判するという立場に基づいていることである。

 

 本書前半部分では、動物の中で「人間は本当に例外なのか」という疑問や、「人間はどれほど特別なのか」という問いを読者に投げかけ、様々な動物実験や観察などを根拠に、われわれの「思い込み」を解いていく。

 

 今回は、ローリー・グルーエン著『動物倫理入門』を中心に、「人間例外主義」について3回に分けて検討する。本稿の内容は、以下の通りである。

 

 [内容]

【第1回】本書は「人間例外主義」批判に基づく入門書

■【第2回】「人間例外主義」とは人間は動物に対して倫理的責任がないという立場

■【第3回】「人間例外主義」では言語を使用しない人間が配慮の対象にならない

■【第3回】まとめ

 

 ■本書は「人間例外主義」批判に基づく入門書

 

  本題に入る前に、本書の基本姿勢から確認する。本書の「はじめに」の部分で、「動物は道徳的配慮に値し、彼らの生命は大切」であるということが、本書の基本姿勢であると記述されている。

 

 ただし、グルーンは特定の立場をとってそれを深く追求することはせず、むしろ倫理的問題が競合状態にあることや、人間と動物の関わり、そして動物に対する義務の倫理的複雑さに焦点をあてている。これが当初の目的であったと思われる。われわれ人間とわれわれ人間以外の動物との倫理的葛藤などを、本書で描きたかったのではないかと想像できる。

 

 また本書は「動物倫理学」の教科書として、大学などでの使用を想定した表現も、別の箇所で見られる。様々な観点から「動物倫理学」について考察できる教科書的な位置づけとして、本書を意図した可能性がある。

 

 しかし、本書の内容はあくまで彼女の「人間例外主義」批判という立場から見た「動物倫理学」の入門書である。本書の後半部分で著者自身が次のように述べている。

 

 本書は、人間は特別であり、動物より優れているという深く根付いた考えについて探求することから始まった。私は、人間例外主義は、偏見に満ちたものであり、支持できないと論じた。(邦頁 ,221)

 

 様々な側面から「動物倫理学」について考察できるような教科書的な入門書を当初、著者は計画していたが、結果的に自らの立場を展開してしまったように思える。

 

 だからといって、本書での彼女の矛盾を指摘し批判するつもりは毛頭ない。とにかく主張したいことは、本書は一般的な「動物倫理学」の入門書ではなく、「人間例外主義」批判という立場から見た入門書である、ということである。【続く】

 

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【参考文献】

Ethics and Animals: An Introduction (Cambridge Applied Ethics)