【前回の記事】
殺処分ゼロや削減のため、地域猫活動で避妊・去勢手術は重要な取り組みである。事実、TNRなど殺処分ゼロや削減のため取り組んでいる地方公共団体は増えている。
【参考:過去記事】
一方、環境省パンフレット『ふやさないのも愛』によれば、全国で約10万頭のネコが殺処分されている。その中で、離乳前の子ネコが約7割である。(平成25年度現在)
【参考:環境省『ふやさないのも愛』】
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2706h/pdf/full.pdf
完全室内飼育であっても、ネコの避妊・去勢手術は必須である。手術を実施すれば、頭数が抑えられるだけでなく、オスとメス共に避妊・去勢しないストレスから起こる問題行動も予防できる。
この点について、以下詳しく検討する。
【参考:(公財)日本動物愛護協会】
■ネコは交尾すれば確実に妊娠する
さいたま市「動物愛護ふれあいセンター」によれば、ネコは交尾を行えばほぼ確実に妊娠する。
ネコは、単独行動を好むなわばり動物である。普段、オスとメスは別々に暮らしている。そのため、少ない交尾の機会に確実に妊娠できる仕組みになっている。
また、ネコは日照時間が長くなると発情する。特に、2月から4月が発情期といわれている。ただし、①子育て中ではない②栄養状態がよい③人工光が明るいなどの条件が揃えば、1年中交尾・出産できる。
【参考:さいたま市HP】
■ネコは出産回数と頭数が多い
環境省パンフレット『もっと飼いたい?』によれば、メスのネコは生後4ヶ月頃から子どもを産めるようになる。基本的に、メス猫は年に4回出産でき、1回で4頭から8頭出産する。
このことから考えると、1頭のメスのネコが年間約20頭出産し、3年後に約2,000頭以上の子ネコが生まれる計算になる。
【参考:環境省パンフレット『もっと飼いたい?』】
また、ネコは親子や兄弟であっても、子どもを作る。放っておくと、1組のオスとメスから何十頭も子ネコが生まれる。
ネコだけでなく、基本的に飼育する動物が増えすぎると、適切な世話が行き届かなくなる。その結果、「多頭飼育崩壊」という悲劇が生まれる。
【参考:[2020年4月5日]北海道ニュースUHB 】
■ネコは避妊・去勢しないストレスから問題行動を起こす
ネコにとって、繁殖行動に関わる欲求は強く抑えがたい。相手が身近にいれば、当然交尾したくなるし、いなければ探しに行きたくなる。
避妊・去勢手術をせず欲求を残したまま交尾させないことは、オスとメス共に大きなストレスになる。その結果、愛猫が心身共に病気になりやすくなり、問題行動を起こす。
特に、同性同士で繁殖の優先権を巡って争いが生じる。
避妊・去勢しないストレスで起こる猫の問題行動
(環境省パンフレット『もっと飼いたい?』より)
・異常に吠える・鳴く
・ケンカ
・不適切な排泄(マーキング)
・自傷行為
(手足を舐める・自分の尾を追いかける)
・家から出る・放浪する
以上、ネコは①交尾すれば確実に妊娠する②出産回数と頭数が多い③避妊・去勢しないストレスから問題行動を起こすことについて検討した。
日本獣医師会の調査(平成27年度)によれば、ネコの避妊手術(卵巣子宮摘出)の費用は、約70%の動物病院が15,000円から30,000円の範囲である。調査は、手術のみの費用である。その他麻酔料、入院料そして術後の投薬代などが別途かかる場合もある。
【参考:猫と暮らし大百科】
ただし 、飼いネコの避妊・去勢のための手術費用の一部を助成する事業を実施する地方公共団体もある。
【参考:公益社団法人 沖縄県獣医師会(主催)「令和3年度 犬・猫避妊・去勢手術のおすすめ」について】
確かに、手術代などネコへの経済的負担は大きい。しかし、伴侶動物としてネコを飼育する際、覚悟しなければならない。
このような制度を活用しながら、愛猫とできるだけ長く時間を共に過ごして欲しい。
伴侶動物は、本来われわれの目的を満たす単なる「手段」ではない。できるだけ長く共同生活することを望むのであれば、愛猫の体のことや健康について理解し、その対策を施さなければならない。【続く】
【次の記事】
【その他参考資料】