ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【私訳#8】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

はじめに

 入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストに、マイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)を訳出する。今回は第8回である。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

 Jeff Jacoby, a pro-market commentator writing in the Boston Globe, argued against price-gouging laws on similar grounds: "It isn't gouging to charge what the market will bear. It isn't greedy or brazen. It's how goods and services get allocated in a free society." Jacoby acknowledged that the "price spikes are infuriating, especially to someone whose life has just been thrown into turmoil by a deadly storm". But public anger is no justification for interfering with the free market. By providing incentive for suppliers to produce more of the needed goods, the seemingly exorbetant prices "do far more good than harm." His conclusion : Demonizing vendors won't speed Florida's recovery. Letting them go about their business will." 

 

■単語と文法事項の確認

・ground:立場 

・gouge:吹っ掛ける 

・charge:請求する 

・bear:○○を持つ 

・greedy:強欲な 

・brazen:恥知らずの 

・allocate:配分する 

・acknowledged:認める 

・infuriate:腹立たしい 

・thrown into:陥れる 

・turmoil:混乱 

・public:市民 

・justification:正当化 

・interfere:干渉する 

・incentive:動機 

・seemingly:見せかけでは 

・exorbetant:法外な 

・demonize:悪者扱いする 

・vendor:売り手 

・go about:動き回る・精を出す 

 

■私訳

ボストン・グローブ』紙上でプロの市場主義評論家であるジェフ・ジャコビーは同様の立場で法外な値上げ禁止法に次のように論じた。「市場が持つものを請求することは不当な値段を吹っ掛けることではない。それは欲深くも恥知らずでもない。自由市場で商品やサービスがどう配分されるかである。価格高騰は、特に恐ろしい嵐によって生活が混乱に陥れられた人々にとっては腹立たしい。」しかし市民の怒りは市場経済の介入を正当化はしない。必要となる商品をよりたくさん生産する業者のために動機づけを与えることによって、法外な価格でも「害悪よりも遥かに多くの利益をもたらす」。彼の結論は次の通りである。売り手を悪者扱いすることがフロリダの回復を早めるわけではない。彼らに任せることによってその仕事の意志が働く。 

 

■本書の訳

 自由市場支持の評論家のジェフ・ジャコビーは、『ボストン・グローブ』紙上で同じような論拠から便乗値上げ禁止法に反対した。市場でつく値段を請求するのは吹っ掛けではない。強欲でも恥知らずでもない。自由な社会では商品やサービスはそうやって分配されるものなのだ。」という。ジャコビーは「物価の急騰はひどく腹立たしいことだ。恐ろしい嵐で生活を滅茶苦茶にされた人にとっては特にそうだ。と認める。だが、一般市民の怒りは自由市場への介入を正当化するものではないと彼は主張する。一見法外な価格も、求められている品物を増産する動機づけを生産者にもたらすことで「害よりもはるかに多くの利益をもたらす。」「売り手を悪者扱いしてもフロリダの復興が早まるわけじゃない。好きに商売させてやればフロリダは早く復興するだろう。」ジャコビーはそう結論した。 (p.11)

 

■私訳と本書の訳の比較

 私訳は、基本直訳である。そのせいか、分かりづらい訳になっていることはやむを得ない。最後の文である”Letting them go about their business will.”を、私訳では「彼らに任せることによってその仕事の意志が働く」と訳出したのに対して、本書では「好きに商売させてやればフロリダは早く復興するだろう」となっている。

 

 「一般市民の怒り」によって、価格はコントロールされるわけではない。あくまで需要と供給の関係性によって、価格は変動する。つまり「見えざる手」という「価格機構」に委ねれば、「フロリダは早く復興する」とジャコビーは言いたいのだろう。

 

 そのニュアンスが訳出できていれば、本文の理解は上手くいっていることになる。【続く】

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

【参考文献】