ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【私訳#19】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

 

はじめに

 入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストに、マイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)を訳出する。今回は第19回である。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

To acknowledge the moral force of the virtue arguments is not to insist that it must always prevail over competing considerations. You might conclude, in some instances, that a hurricane-stricken community should make a devil's bargain – allow price gouging in hopes of attracting an army of roofers and contractors from far and wide, even at the moral cost of sanctioning greed. Repair the roofs now and the social fabric later. What's important to notice, however, is that the debate about price-gauging laws is not simply about welfare and freedom. It is also about virtue - about cultivating the attitude and dispositions, the qualities of character, on which a good society depends. 

 

■単語と文法事項の確認

・acknowledge:認めること 

・insist:要求する 

・prevail:優先する 

・considerations:問題点 

・conclude:結論を下す

・in some instances:例えば 

・bargain:契約 

・in hopes of A:Aに期待して 

・attract:引きつける 

・an army of A:大勢のA 

・contractor:建設業者 

・sanction:是認する 

・greed:貪欲 

・fabric:構造 

・notice:注意 

・cultivate:陶冶する 

・disposition:気質 

・quality:質 

 

■私訳

美徳論の道徳的な力を認めることは、それが競合する問題点に対していつも優先することを要求するわけではない。例えば、ハリケーン被害に遭った共同体はー強欲さを是認する道徳的コストでさえ、広く遠くから大勢の屋根職人や建設業者を引きつけることを期待して価格の値上げを許容するというー悪魔の契約をするべきであると決断を下すかもしれない。今は屋根を直し社会構造は後である。しかしながら、注意すべき重要なことは、法外な値上げ法についての議論は単に幸福で自由に関することではないということである。それは美徳、すなわちよい社会に依存した気質、つまり性格の質や態度を陶冶することに関わる。 

 

■本書の訳

美徳論が道徳に及ぼす力を認めると言っても、それが競合する議論に対してつねに優先されねばならないと言っているのではない。たとえば、ハリケーンに襲われたコミュニティは悪魔の取引を結ぶべきだという判断が下される場合もあるだろうー強欲を受容する道徳面とコストを支払ってでも、広く各地から屋根職人や建設業者が押し寄せるのを期待して、便乗値上げを受け入れるべきだという判断だ。まずは屋根の修理をやってしまって、社会機構はその後の話だ。とはいえ、押さえておくべき大切なことは、便乗値上げ禁止法をめぐる議論は単に幸福と自由に関わるわけではないという点だ。それは美徳についてのー心構えや気質、つまり性格を陶冶することについてのー議論でもある。よい社会は美徳を土台としているのだ。 (p.24)

 

■私訳と本書の訳の比較

【私訳#11】で確認したように、「便乗値上げ禁止法」(price-gauging laws)の議論は、①幸福の最大化②自由の尊重③美徳の促進を中心に展開される。

 

【参考:過去記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 「美徳論」(the virtue arguments)は、常に優先されるとは限らない。しかし、「便乗値上げ禁止法」をめぐる議論は単に上記の①と②だけではない、とサンデルは主張する。今回は美徳に関する議論でもある。【続く】

 

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 

【参考文献】