ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【要約と注釈⑬】たんなる理性の限界内の宗教|第1編(一般的注解)(段落1~段落4)

 

[内容]

第1編 悪の原理が善の原理とならび住むこと
   について、あるいは人間の本性のうちな
   る根源悪について

 

一般的注解 善への根源的素質が力を回復することについて

 ・段落1 要約と注釈

 ・段落2 要約と注釈

 ・段落3 要約と注釈

 ・段落4 要約と注釈

 文献

 

[段落1]

要約

善にせよ悪にせよ、人間はそれに「自分自身で」なるに違いない。善も悪も、自由な「選択意志」の結果でなければならない。人間は善に創造されていると言われるのは、人間は「善に」向かうよう作られており、その内なる根源的「素質」は善であること以上の意味であり得ない。素質に含まれる動機を「格率」の中に採用するか否かに応じて、人間は自分で善か悪かになるようにしていく。善になるためにせよ、人間はその積極的助力を「受け入れ」なくてはならない。(Ⅵ,44)

注釈

 人間は、「自分自身で」善にも悪にもなる。人間は善になるよう「創造されている」内なる根源的「素質」は、善である以上の意味ではあり得ない。その「素質」に含まれる動機を、格率の中に採用するかどうかによって、人間は善にも悪にもになる。善になるためにせよ、人間はその積極的助力を「受け入れ」なくてはならない。

 

[段落2]

要約

自然的に悪い人間がよい人間になることがどのように可能なのかは、われわれの概念を超える。善から悪への頽落は悪から善への復帰よりも理解しやすいわけではない。復帰の可能性は反駁され得ない。この離反に関わらず、よりよい人間になる「べし」という命令は以前にもましてわれわれの魂に響き渡る。そこで究めがたい、より高次の助力をわれわれは受け取れるようになるに違いない。(Ⅵ,44-45)

注釈

 そもそも悪い人間がよい人間になることが、どのように可能か。この問題はわれわれの概念を超える。よりよい人間になる「べし」という命令は、以前より増してわれわれの魂に響き渡る。そこで究め難い、より高次の助力をわれわれは受け取れるようになる。

 

[段落3]

要約

内なる善への根源的素質を回復することは、善への「失われた」動機の獲得ではない。回復とは、われわれすべての格率の最上根拠として「道徳法則」の純粋さを取り戻すことである。根源的善は、「義務」を遵守するに際して義務から「格率の聖性」である。「義務」を遵守する堅固な意図は、「徳」とも呼ばれる。それは、「経験的性格」としての適法性についてである。必ずしも「心情の変化」は、必要ではない。必要なのは、「道徳的慣習」の変化である。人間が自ら有徳だと思うのは、「義務」を遵守するという「格率」で自分が堅固だと感じるときである。このような人間は、何かを「義務」として認識すると、「義務」そのものの表象以外、他の動機を必要としない。「格率」の基礎が不純なままである以上、そのようになることは人間の心術の「革命」によって引き起こされなければならない。(Ⅵ,46-47)

注釈

  「義務」を遵守する堅固な意図は、「徳」とも呼ぶ。「経験的性格」としての適法性について、必要なことは心情ではなく「道徳的慣習」の変化である。人間が自らを「有徳である」と思うのは、「義務を遵守する」ときは「格率」によって自分が堅固だと感じるときである。何かを「義務」として認識すると、このような人間は他の動機を必要としない。

 

[段落4]

要約

人間が「格率」の根本から腐敗しているならば、自力でこの革命を成就して自らよい人間になることはどのようにして可能か。「義務」は、そうなるよう命じる。これはわれわれになし得ることしか命じない。革命と暫時的改革が、人間にも可能でなくてはならないという方法以外にない。人は「格率」の最上根拠によって、悪い人間であった。それを無比の揺らぎなき決意によって逆転させるならば、人は善を受け入れる主体となる。「選択意志」の「最上格率」として取り入れた原理が純粋なことによって、悪いものからよりよいものに向かって絶えず「前進する」ような善の道にあるという希望をその人は持てるようになる。(Ⅵ,47-48)

注釈

  「格率」が根本から腐敗しているならば、「義務」は「自力で自らよい人間になる」ことを命じる。悪い人間であるにも関わらず、「よい人間になる」という揺るぎない決意によって自分自身を好転させるならば、人は善を受け入れる主体となる。「選択意志」の「最上格率」として採用した「道徳法則」が純粋であることによって、悪いものからよりよいものに向かって絶えず「前進する」善の道にあるという希望をその人は持てるようになる。

 

文献

 Kant.I,1793(1794):Die Religion innerhalb der Grenzen der bloßen Vernunft(邦題:たんなる理性の限界内の宗教、『カント全集10』所収、北岡武司訳、岩波書店、2000年.).【続く】

 

※今回、要約した著作はアカデミー版カント全集からであり、要約に際してその巻数とページ数を記載した。