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2.自分自身に対する完全義務ー自殺の例ー
第1に、「自分自身に対する完全義務」に反する「格率」について検討する。
カントは、「われわれの生命が快適さよりも災いをもたらす場合、自愛に基づいて生命を短縮する」という「格率」が、普遍的法則となり得るかどうかを考えた。そして、この「格率」は普遍的法則になり得ないと結論づけた。なぜなら、この「格率」を普遍的法則として考えると、自己矛盾に陥るからである。
われわれの感情の本分は、生の促進を図ることである。しかし、自殺を図ることは、われわれの感情が自らの生を破壊することになる。そのため、われわれの感情が一方で生の促進を図り、他方で自らの生を破壊することになる。これは、「思考すること」に関して矛盾していることを示す。ゆえに、この「格率」は普遍的法則になり得ない。
確かに、「自分自身に対する完全義務」について、われわれの感情の本分は、生の促進を図るというカントの前提を検討する余地はあるかもしれない。しかし、自らの生命を維持するために、われわれは睡眠をとったり食事をしたりする必要がある。
このことから考えると、カントがわれわれの感情の本分は生の促進を図ることであるとしたのには、納得できる。
このように、「自分自身に対する完全義務」に反する「格率」を例に、カントはこの義務について説明する。【続く】
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