ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【抄訳と訳注⑭】Tom Regan,1983:The Case for Animal Rights (p.174-pp.185)【カント道徳哲学】

The Case for Animal Rights

The Case for Animal Rights

  • 作者:Regan, Tom
  • University of California Press
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5.5 カントの立場:目的それ自体としての人間性 (p.181 )

 

The issue, it bears emphasizing, is not whether Kant provides us with an acceptable account of how animals may be treated; it is whether his ethical theory allows for the possibility of his presenting any account at all. It seems that it does. 

 

[訳] 

 強調しておきたいのは、問題はカントが動物をどのように扱うだろうかということについて許容できる説明をわれわれに与えるかどうかではない。すなわち、彼の倫理的理論が今の彼の説明の可能性をともかく考慮に入れるかどうかである。その通りであろう。

 

[訳注] 

 ここで問題となるのは、カントが動物をどのように扱うだろうかということではなく、彼の倫理的理論が彼の説明の可能性をわれわれが考慮に入れるかどうかである。

 

 What Kant could argue is that maltreatment of those things that have value merely as means consists in treating them in ways that reduce their value as means, which, given the sort of value they have, is” unfitting to their nature”. And he could then argue that since things have value merely as means, no moral wrong is thereby done to them when they are treated in ways that are “unfitting to their nature”.

 

[訳]

 カントが主張できることは、単に手段として価値ある物件の不当な扱いは、手段として価値を減少させるような方法でそれらを扱うことであり、それらが持つある種の価値を考えると、そのことは「それの本性にふさわしくない」ということである。そして物件は単なる手段として価値を持つので、それらが「本性にふさわしくない」方法で扱われるとき、それに関して道徳的な過失はそれらにはもたらされないと彼は主張できるだろう。

 

[訳注]

 カントによれば、「単に手段として価値ある物件」(things that have value merely as means )の不当的扱いは、手段としての価値を減少させる方法でその対象を扱うことである。「単なる手段として価値を持つ」ものとしての「物件」がその「本性にふさわしくない」(unfitting to their nature)方法で扱われるならば、道徳的過失はその対象にはもたらされない。

 

 Rather, the explanation of when and, if so, why maltreating things is morally wrong is that this will in time lead moral agents to maltreat individuals who exist as ends in themselves.

 

[訳]

 むしろ、もしそうであるならば、いつなぜ物件を不当に扱うことが道徳的に間違っているかという説明は、このことがやがて道徳的主体に目的それ自体として存在する個人を不当に扱うことに繋がる。

 

[訳注]

 ここで、レーガンのコメントが入る。上記のようにカントの主張に従うならば、「道徳的主体」(moral agents)に「目的それ自体」(ends in themselves)として存在する個人を不当に扱うことに繋がる。【続く】

 

【参考文献】

 Kant.I,1785:Grundlegung zur Metaphysik der Sitten(邦題:訳注・カント『道徳形而上学の基礎づけ』、宇都宮芳明著、以文社、1989年.)

 

 浅野幸治,2018:動物の権利 ー間接義務説再考ー、『フィロソフィア・イワテ』所収、岩手哲学会編、岩手哲学会、2018年.https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000002-I028999359-00

 

 浅野孝治,2021:ベジタリアン哲学者の動物倫理入門、カニシヤ出版.

 

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