人間であっても、人間以外の動物であっても、「伝統」や「文化」という固有の価値観に基づいて、人間やその他の動物を差別的に扱うケースがある。このような行為によって、地域や特定の集団の「文化的アイデンティティ」を維持しようとする場合も少なくない。
しかしながら、「伝統」や「文化」を理由にして、人間や人間以外の動物の権利を侵害することは容認できることではない。この点について、オランダの「クリスマス」や沖縄県の「闘鶏」を例に考えてみることができる。
[内容]
【第1回】オランダの「クリスマス」
【第2回】沖縄で行われている「闘鶏」
【第3回】ヒュームの法則-「である」から「べき」は導けない
■オランダの「クリスマス」
2019年12月21日、NHKニュースでオランダの「クリスマス」に関する話題を目にした。
オランダは毎年11月半ばから12月初めまで、サンタクロースの原型と言われる「シンタクラース」が開催される。サンタクロースのお手伝いである「ズワルトピート」(※)は、黒人奴隷が起源とされる。番組によれば、そのあり方がオランダ国内で大きな論争になっている。
【参考:「ブラック・ピート」の顔色が変わる オランダ ※NHK「ニュース」とは異なる内容】
この番組の中で、移民してきた若い黒人活動家が、デモなどで「反対」の意志を表明する様子が紹介された。
この伝統行事について、「伝統」の継承か「差別」の撤廃かという構図が読み取れた。オランダに限らず、世界各地には人権擁護という観点から疑問視される行事や風習が存在する一方で、「伝統」や「文化」を理由に現代でも受け継がれている場合もある。
「伝統」の継承か「差別」の撤廃かという問題は、動物倫理学の中でも見られる。「伝統」の継承を理由に、「闘犬」や「闘牛」など「娯楽」の道具として人間以外の動物たちが長年、不当に扱われてきたという事実がある。
この視点を踏まえ、沖縄県での「闘鶏」を事例にこの問題について考えていきたい。【続く】
(※)シンタクラースの侍従で、16世紀の貴族の衣装に基づく服を着ている。しばしばレースの襟と羽飾りのついた帽子で飾り立てている。ズワルトピートが発生したのは18世紀のことである。 初めて印刷物に現れたのは、1850年にアムステルダムの教師ヤン・スケンクマンが発行した Sint-Nikolaas en zijn knecht (『聖ニコラスとその従者』)の中で聖ニコラスの名無しの従者として出てきたものである。 しかし、ズワルトピートの伝統は少なくとも19世紀の初頭にまでさかのぼることが出来る。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)より引用)
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