ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【カント道徳哲学】カントの間接義務|家畜動物や伴侶動物を丁寧に扱うことは間接義務である。

 

 われわれ人間と人間以外の動物の倫理的関係のあり方について考える際、カント道徳哲学は大きな手がかりを与えてくれる。カント道徳哲学には様々な概念が存在するが、本稿では「間接義務」(indirekte Pflicht)について検討する。

 

 「間接義務」について検討することは、家畜動物や伴侶動物をカントがどのように捉えているかという理解に繋がる。今回は『人倫の形而上学』の「徳論」をテキストに、カントの「間接義務」を検討する。本稿の内容は、以下の通りである。

 

[内容]

■「間接義務」とは何か

■『人倫の形而上学』から見る「間接義務」

■まとめ

 

■「間接義務」とは何か

 まず、「間接義務」の一般的な定義について確認する。

 

間接義務はある存在に関する義務である。

 

 「直接義務」(direkte Pflicht)がある存在に対する義務である一方、「間接義務」はある存在に関する義務である(注1)。すなわち相手に対して直接的に果たすべき「義務」(Pflicht)ではなく、「間接義務」は相手の財産や所有物などに関して果たすべき「義務」である。

 

■『人倫の形而上学』から見るカントの「間接義務」

 

 では「間接義務」に関して、カントはどのように述べているか。車や時計と同様、家畜動物や伴侶動物も財産あるいは所有物であるとカントは捉えている。このことから、家畜動物あるいは伴侶動物も「間接義務」の対象であると考えることはカント的である。『人倫の形而上学』の「徳論」第1編で、カントは以下のように述べる。

 

 動物を手荒にそして同時に残酷に取り扱うことは、さらに一層心の底から人間の自己自身に対する義務に背いている。なぜなら、そうすることによって、人間の内に存在しているこれらの苦痛に対する共感は鈍磨され、それにより他人との関係における道徳性にきわめて役に立つ自然的素質もまた弱められ、次第に抹殺されることになる。・・・(中略)・・・また長年奉仕してくれた老いた馬や犬に対しても(それらが家族の一員であるかのように)感謝の念を懐くことすら、間接的に、すなわちこの動物に関する人間の義務に属している。しかしながら直接的に観るならば、それはあくまでも人間の自己自身に対する義務であるに過ぎない。(Ⅵ,443 太字は筆者)

 

 動物を残酷に扱わないことや老馬や老犬にも感謝の念を抱くことは「義務」であると、なぜカントは考えるのか。そうしなければ、「人間の自己自身に対する義務」にわれわれが背くことになるからである。

 

 人間以外の動物を残酷に扱ったりぞんざいに扱う行為によって、人間の中にある苦痛への共感が鈍磨される。また、他人との関係への道徳性に役立つような「誠実さ」や「親切心」などの自然的素質も衰えたり消滅する。

 

 このカントの議論から、老馬や老犬などの家畜動物や伴侶動物などの動物を丁寧に扱うことは「人間の自己自身に対する義務」に還元されると解釈してよい。家畜動物や伴侶動物を丁寧に扱うことは、彼ら/彼女らそれ自体への「直接義務」でははなく、われわれ人間への「間接義務」になる。

 

■まとめ

 

 以上、本稿から次のことが明らかになった。

 

・「間接義務」はある存在に関する義務である。

・家畜動物や伴侶動物を丁寧に扱うことは「間接義務」である。

 

 このように考えると、カントの立場は「人間中心主義」であるという見方も出てくる(注2)。一方、換骨奪胎したカント道徳哲学に依拠しながら「動物の権利」を基礎づける動きもある(注3)。この議論の検討は、本稿の意図から外れるので次回に譲る。【終わり】

 

(注1) Svoboda.T,2014 参照。

(注2) 田中,2009 参照。

(注3)例えば Regan.Tなど。田上,2021 参照。

 

【参考文献】

Svoboda.T,2014:A reconsideration of indirect duties regarding non- humanorganisms(Pre-Print Version),Ethical theory and moral practice,Springer Netherlands,2014.

 

田中 綾乃,2009:自然に対する義務と人間中心主義 ーカント哲学の人間観を手がかりに、『「エコ・フィロソフィ」研究(3)』所収、東洋大学「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ(TIEPh)事務局 、2009. 

 

田上 孝一,2021:はじめての動物倫理学集英社新書、2021.

 

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