はじめに
『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』と略記)と、『実践理性批判』でのカントの道徳法則の表現は異なる。
『基礎づけ』の場合、カントは道徳法則を「汝の格率が普遍的法則となることを、その格率を通じて、汝が同時に意欲することができるような、そうした格率に従ってのみ行為せよ」(Ⅳ,421;104)という「定言命法」の根本法式として定立する。
他方、カントは『実践理性批判』の中で道徳法則を「君の意志の格率〔行動方針〕が、つねに同時に普遍的立法の原理として通用することができるように行為しなさい」(Ⅴ,30;165)という、純粋実践理性の根本法則として、定立する。
両者の道徳法則は、明らかに表現の仕方が異なる。このように、一見両者は異なるもののように思われるが、実は同一の道徳法則であると考えられる。
なぜ、そのように考えられるのだろうか。今回はこの問題に関して考察する。そのため、「定言命法」の根本法則における二十規制的構造という解釈の立場に立ち、カントの「意志」(Wille)という概念について検討する。すると、「定言命法」の根本法式と、純粋実践理性の根本法則が、二十規制的構造を持ち両者が同一の道徳法則である、ということが示されるであろう。【続く】