4.終わりに
今回は、カントの道徳哲学の書である『基礎づけ』や『人倫の形而上学』と、『判断力批判』で語られる他者について検討した。
その結果、『基礎づけ』や『人倫の形而上学』では、道徳的主体である自己に主眼が置かれていることがわかった。他方、『判断力批判』では、他者との関係性を認めていることがわかった。この時点で、問題が生じる。すなわち、カントが考える他者とは一体誰のことを指すのか、ということである。
牧野や中島義道らは、カントの他者とは実在する他者を意味すると主張する。他方、新田孝彦や加藤らはカントが考える他者とは実在する他者ではなく、むしろ自己の延長線上に位置する他者であると主張する。新田や加藤らは、カントの考えを独我論的であるとして非難する。
どの立場に立つかによって、カント哲学にへの見方は大きく変わる。この問題は早急に結論を下さなければいけない。なぜなら、この問題は「不完全義務」(unvollkome Pfricht)の概念にも直接影響を与えるからである。
「不完全義務」について考える際にも、この問題は、是非クリアーしなければならない。【終わり】