6.『啓蒙とは何か』での理性の公的な利用(その2)
【参考:過去記事】
【前回の続き】
このカントの主張から平成30年度告示『高等学校学習指導要領』に記載されている「主体的・対話的で深い学びの実現」(文部科学省,2018,19)が、想起される。
【参考:『高等学校学習指導要領』(平成30年度告示)】
平成 26年 11月 20 日の中央教育審議会への諮問「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」で具体的な審議事項として、今後の「アクティブ・ラーニング」の在り方について考え方を示した。
【参考:初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)】
これを受けて、中央教育審議会で我が国の学校教育の様々な実践や各種の調査結果、学術的な研究成果などを踏まえ検討が行われた。
生徒に必要な資質・能力を育むための学びの質に着目し授業改善の取組みを活性化していく視点として中央教育審議会は「主体的・対話的で深い学び」を位置付けた。「主体的な学び」、「対話的な学び」、「深い学び」の視点は各教科などで優れた授業改善などの取組に共通しかつ普遍的な要素である。
このように、平成30年度告示『高等学校学習指導要領解説 総則編』で「主体的・対話的で深い学びの実現」についての経緯を示している。
【参考:『高等学校学習指導要領解説 総則編』(平成30年度告示)】
ただし、平成30年度告示『高等学校学習指導要領』では、「アクティブ・ラーニング」という言葉は見られない。
しかし、「アクティブ・ラーニング」の視点で「主体的・対話的で深い学び」を考えるのであれば、西川純の指摘がひとつの手がかりになるかもしれない。西川は、文部科学省が発表した「アクティブ・ラーニング」のポイントを次の2点に整理する。
1つ目は教員による一方的な講義形式の教育とは異なり、学習者の能動的な学習への参加を取り入れていることである。例えば、教師が綿密に計画を立て、子どもが教師の思った通りに動くという問題解決学習やグループワークなどは「アクティブ・ラーニング」ではない。
2つ目は、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成をしていることである。例えば、電流と電圧の関係を発見学習で学んでいるとき、子どもの倫理的成長を期待しない。これは一般的なことである。
しかしそれでも、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成をしなければ「アクティブ・ラーニング」とはいえない。
【参考:すぐわかる! できる! アクティブ・ラーニング】
また、河村茂雄は「アクティブ・ラーニング」を通して、能動的に状況や他者との関わる中で、新たな知識や技能・情報を獲得し自分の考えを再構成して深めていくことで、生徒が様々な資源・能力を身に付けていくことを示唆している。
【参考:アクティブ・ラ-ニングのゼロ段階:-学級集団に応じた学びの深め方】
カントの「理性の公的な利用」と西川や河村の見解を比較すると、次のような結果が得られる。すなわち、それは自ら理性を使って互いに意見を述べ合いながら問題解決を図る態度の育成をカントが想定しているのであれば、「主体的・対話的で深い学び」という概念は学習者の能動的な学習への参加を意図しているし、生徒の様々な能力を活用しながら汎用的能力の育成を目指している、ということである。
能動的な学習を通して、生徒が様々な能力を身に付けていくことが両者共通して考えられている。
急激な少子高齢化が進む中で、成熟社会の進展や「知識基盤社会」という社会的背景から、「主体的・対話的で深い学び」の授業実践が求められている。
以上の考察から、カントのいう「理性の公的な利用」という概念も、このような実践が意図されている。【続く】