ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【私訳#9】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

はじめに

 入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストに、マイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)を訳出する。今回は第9回である。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

 Attorney General Crist (a Republican who would later be elected governor of Florida) published an-ed piece in the Tampa paper defending the law against price gouging:" In times of emergency, government cannot remain on the sidelines  while people are charged unconscionable prices as they flee for their lives or seek the basic commodities for their families after hurricane. Chris rejected the notion that these "unconscionable" prices reflected a truly free exchange:  

 

This is not the normal free market situation where willing buyers freely elect to enter into the marketplace and meet willing sellers, where a price is agreed upon based on supply and demand in an emergency, buyers under duress have no freedom. Their purchase of necessities like safe lodging are forced. 

 

■単語と文法事項の確認

・remain:○○のままである。 

・on the sidelines:傍観して 

・unconscionable:桁外れの 

・flee:非難する 

・commodity:必需品 

・elect to:○○を決定する 

・duress:強制 

・purchase:購入 

・lodging:宿 

 

■私訳

 クリスト司法長官(共和党員で後にフロリダ州知事に選出された)は『タンバ』紙の論説コラムで法外値上げに対抗する法律を擁護論を次のように発表した。「緊急事態の際に、ハリケーン後に自らの家族のため生活のため非難し生活必需品を探すとき、 人々が桁外れの価格を請求されている一方で、政府は傍観しているままにはできない。クリスはこれら「桁外れの」価格が本当に自由な取引を反映する意見を拒否した。 

 

 これは自発的な買い手が市場の中に入ることを選択し自発的な売り手と出会うという自由市場の状況ではなく、ある価格は緊急急事態での需要と供給に応じ、強制下での売り手は自由ではない。これら安全な宿泊所のような必要な購入は強いられたものである。 

 

■本書の訳

 先のクリスト司法長官(共和党員で後のフロリダ州知事)は『タンバ・トリビューン』紙上の論説コラムで、便乗値上げ禁止法擁護論を展開した。「緊急事態において、良心にもとるような請求がなされているのを政府は傍観するわけにはいかない。人々は命からがら避難し、ハリケーン後の状況で家族のために生活必需品をなんとか手に入れようとしているのだ。」クリストはこうした「良心にもとる」価格は真に自由な取引に基づいてはいないのだと主張する。彼は次のように言う。 

 

 これは正常な自由市場の状況ではない。自発的にものを買おうとする買い手が市場に出かけていって自発的な売り手に出会い、そこで受給に応じて価格に合意が下されるという状況ではない。緊急事態では、切羽詰った買い手に自由はない。安全な宿泊所を借りるといった必要不可欠な買い物は強いられたものだ。 (p.12)

 

■私訳と本書の訳の比較

 ここで登場する、クリスト司法長官は緊急事態下での「便乗値上げ」に反対の立場を採る。「ハリケーン後の状況」では、「良心にもとる」価格は真に自由な取引に基づいてはいない。すなわち緊急事態下では、「見えざる手」による「価格機構」は機能していないと、クリスト司法長官は言いたいのだろう。ハリケーンのような緊急事態下では、「買い手に自由はない」。この状況下で、政府は単に「傍観」してはいけない。

 

 この内容が私訳で訳出できていれば、本書の訳とは大きなズレはないだろう。今後サンデルがどうコメントするのか、楽しみになってきた。【続く】

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

【参考文献】

 

 

【私訳#8】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

はじめに

 入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストに、マイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)を訳出する。今回は第8回である。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

 Jeff Jacoby, a pro-market commentator writing in the Boston Globe, argued against price-gouging laws on similar grounds: "It isn't gouging to charge what the market will bear. It isn't greedy or brazen. It's how goods and services get allocated in a free society." Jacoby acknowledged that the "price spikes are infuriating, especially to someone whose life has just been thrown into turmoil by a deadly storm". But public anger is no justification for interfering with the free market. By providing incentive for suppliers to produce more of the needed goods, the seemingly exorbetant prices "do far more good than harm." His conclusion : Demonizing vendors won't speed Florida's recovery. Letting them go about their business will." 

 

■単語と文法事項の確認

・ground:立場 

・gouge:吹っ掛ける 

・charge:請求する 

・bear:○○を持つ 

・greedy:強欲な 

・brazen:恥知らずの 

・allocate:配分する 

・acknowledged:認める 

・infuriate:腹立たしい 

・thrown into:陥れる 

・turmoil:混乱 

・public:市民 

・justification:正当化 

・interfere:干渉する 

・incentive:動機 

・seemingly:見せかけでは 

・exorbetant:法外な 

・demonize:悪者扱いする 

・vendor:売り手 

・go about:動き回る・精を出す 

 

■私訳

ボストン・グローブ』紙上でプロの市場主義評論家であるジェフ・ジャコビーは同様の立場で法外な値上げ禁止法に次のように論じた。「市場が持つものを請求することは不当な値段を吹っ掛けることではない。それは欲深くも恥知らずでもない。自由市場で商品やサービスがどう配分されるかである。価格高騰は、特に恐ろしい嵐によって生活が混乱に陥れられた人々にとっては腹立たしい。」しかし市民の怒りは市場経済の介入を正当化はしない。必要となる商品をよりたくさん生産する業者のために動機づけを与えることによって、法外な価格でも「害悪よりも遥かに多くの利益をもたらす」。彼の結論は次の通りである。売り手を悪者扱いすることがフロリダの回復を早めるわけではない。彼らに任せることによってその仕事の意志が働く。 

 

■本書の訳

 自由市場支持の評論家のジェフ・ジャコビーは、『ボストン・グローブ』紙上で同じような論拠から便乗値上げ禁止法に反対した。市場でつく値段を請求するのは吹っ掛けではない。強欲でも恥知らずでもない。自由な社会では商品やサービスはそうやって分配されるものなのだ。」という。ジャコビーは「物価の急騰はひどく腹立たしいことだ。恐ろしい嵐で生活を滅茶苦茶にされた人にとっては特にそうだ。と認める。だが、一般市民の怒りは自由市場への介入を正当化するものではないと彼は主張する。一見法外な価格も、求められている品物を増産する動機づけを生産者にもたらすことで「害よりもはるかに多くの利益をもたらす。」「売り手を悪者扱いしてもフロリダの復興が早まるわけじゃない。好きに商売させてやればフロリダは早く復興するだろう。」ジャコビーはそう結論した。 (p.11)

 

■私訳と本書の訳の比較

 私訳は、基本直訳である。そのせいか、分かりづらい訳になっていることはやむを得ない。最後の文である”Letting them go about their business will.”を、私訳では「彼らに任せることによってその仕事の意志が働く」と訳出したのに対して、本書では「好きに商売させてやればフロリダは早く復興するだろう」となっている。

 

 「一般市民の怒り」によって、価格はコントロールされるわけではない。あくまで需要と供給の関係性によって、価格は変動する。つまり「見えざる手」という「価格機構」に委ねれば、「フロリダは早く復興する」とジャコビーは言いたいのだろう。

 

 そのニュアンスが訳出できていれば、本文の理解は上手くいっていることになる。【続く】

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

【参考文献】

 

 

【私訳#7】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

 

はじめに

 入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストに、マイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)を訳出する。今回は第7回である。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

 Higher prices for rice, bottled water, roof repairs, generators, and motel rooms have the advantage, Sowell argued, of limiting the use of such things by consumers and increasing incentives for suppliers in far-off places to provide the goods and services most needed in the hurricane's aftermath. If ice fitches ten dollers a bag when Floridians are facing power outages in the August heat, ice manufacturers will find it worth their while to produce and ship more of it.There is nothing unjust about these prices, Sowell explained; they simply reflect the value that buyers and sellers choose to place on the things they exchange.

 

■単語と文法事項の確認

・generator:発電機 

・advantage:好都合 

・incentive:動機づけ 

・suppliers:業者 

・outage:停電 

・manufacturer:製造業 

・A's  while to:○○にとって~するのはやる意味がある。 

・it's worth~ing:~する意義がある。 

・ship:出荷する 

・unjust:不正な 

 

■私訳

 ソーウェルは次のように論じた。米、ボトルの水、屋根の修理、発電機そしてモーテル代の高い価格が、消費者によってそのようなものの使用の制限やハリケーン直後に最も必要とされる商品やサービスを供給する遠隔地の業者の動機づけに好都合となる。フロリダの住民が8月の暑さの中で停電に直面しているとき、もしも氷が一袋10ドルで売れるならば、氷の製造業はより生産し出荷する意味があることを見出すだろう。これら価格に関して何も不正なものはない。ソーウェルは次のように説明する。それらは売り手と買い手が交換するものを選択する価値を単に反映しているに過ぎない。 

 

■本書の訳

 ソーウェルはこう論じた。米、ボトル飲料水、屋根の修理代、発電機、モーテルの部屋などが通常よりも高いおかげで、こうしたものの消費が抑えられるし、遠隔地の業者にとってはハリケーン襲来直後に最も必要とされている商品やサービスを提供する動機づけが強まることになる。8月の暑さの中で停電に見舞われたフロリダ住民に氷が一袋十ドルで売れるなら、製氷業者は増産してどんどん出荷するのは得策だと見るだろう。そういう価格になんら不正なところはない。それは売買される品物の価値に関する売り手と買い手の選択を反映しているにすぎない。(p.10) 

 

■私訳と本書の訳の比較

 表現に若干違いがあるが、私訳も本書の訳も方向性は同じだろう。

 

 本文から、「見えざる手」の観点から、2004年にハリケーン「チャーリー」がフロリダ州を襲ったときに起こった氷やチェーンソーなどの「値上げ」を、ソーウェルは擁護していることが分かる。

 

 私訳の際に、「東日本大震災」でもハリケーン「チャーリー」の出来事と同様のことが起こった記事を見つけた。参考まで、当時の記事を掲載する。【続く】

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

【参考記事】

president.jp

 

【参考文献】

 

 

【私訳#6】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

 

はじめに

 入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストに、マイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)を訳出する。今回は第6回である。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

 Thomas Sowell, a free market economist, called price gouging an "emotionally powerful but economically meaningless expression that most economists pay no attention to, because it seems too confused to bother with". Writing in the Tampa Tribune, Sowell sought to explain "how 'price gouging' helps Floridans". Charges of price gouging arises "when prices are significantly higher than what people have been used to", Sowell wrote. But "the price levels that you happen to be used to" are not morally sacrosanct. They are no more "special or 'fair' than other prices" that market conditions -including those prompted by hurricane- may bring about.  

 

■単語と文法事項の確認

・bother:困惑する 

・seek to do:○○しようとする 

・charge:非難 

・be used to:○○に慣れる 

・sacrosanct:神聖不可侵な 

・prompt:誘発する 

 

■私訳

 自由市場経済学者である、ト-マス・ソーウェルは法外な値上げを「支離滅裂で困惑するように思えないので、感情的に力はあるがほとんどの経済学者が注意を払わない経済的に意味のない表現」と呼んだ。『タンバ・トリビューン』紙で、ソーウェルは「『法外な値上げ』でフロリダ住民がどれほど助かったか」を説明しようとした。法外な値上げへの非難は「これまで慣れていたものより遥かに高い価格のとき」起こる、とソーウェルは述べる。しかし「たまたま慣れていた価格の水準は道徳的に神聖不可侵ではない。それらは「ハリケーンによって引き起こされた市場の状況も含んだ価格ほど特別でもないし『公平』でもない」。

 

■本書の訳

 自由市場を支持する経済学者のトーマス・ソーウェルは、便乗値上げというのは「感情には強く訴えるかもしれないが、経済学的には無意味で、ほとんどの経済学者が何の注意も払わないような表現だ。でたらめすぎるので苦にすることなどできないように思えるのだ。」と述べた。ソーウェルは「『タンバ・トリビューン』紙上で「『便乗値上げ』のおかげでフロリダ住民がどれほど助かるか」を説明しようとした。便乗値上げの訴えが起こるのは「慣れた水準に比して価格がかなり高い場合」である。しかし「人がたまたま慣れていた価格水準」は道徳的に神聖不可侵であるわけではない。その価格は市場の条件がもたらす「ほかの価格と比べて特別でもないし『公正』でもない」のだ。ハリケーンの影響もそういう条件の1つだ。ソーウェルはこのように説明した。 (p.9)

 

■私訳と本書の訳の比較

 本段落が、本書で登場する「経済学者のトーマス・ソーウェル」の主張であることを明確にするため、最後の行に「ソーウェルはこのように説明した」と本書の訳では付されている。

 

 筆者の主張なのかそれ以外の人物の主張なのかを意識して書き分けることは、文章を書くときに基本的なこととなる。この点を意識して、読者が迷わないよう言葉を補いながら本書は訳出していることに気付いた。【続く】

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

【参考文献】

 

 

【私訳#5】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

はじめに

 入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストに、マイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)を訳出する。今回は第5回である。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

 But even as Crist set about enforcing the price-gouging law, some economists argued that the law- and the public outrage- were misconceived. In medieval times, philosophers and theologians believed that the exchange of goods should be governed by a "just price", determined by tradition or the intrinsic value of things. But in market societies, that economists observed, prices are set by supply and demand. There is no such things as a "just price".  

 

■単語と文法事項の確認

・set about A:Aに取りかかる 

・enforce:○○を守らせる 

・outrage:激怒 

・misconceive:誤解する 

・medieval times:中世 

・theologian:神学者 

・govern:左右する・決定する 

・determin:判断する 

・intrinsic:固有の・本質的な

 

■私訳

 クリストが法外な値段を禁止する法律に取りかかるときでさえ、経済学者の中にはその法律-そして市民の怒りにも-誤解があると論じた。中世では、哲学者や神学者が商品の交換は「公正な価格」によって決定されるべきだし、伝統やモノ本来の価値によって判断されるべきである信じていた。しかし市場社会で、経済学者が見るところでは、価格は需要と供給によって設定される。「公正な価格」などは存在しない。 

 

■本書の訳

 ところが、プリストが便乗値上げ禁止法を執行した時でさえ、一部の経済学者はその法律にはーそして一般市民の怒りにも-誤解があると論じた。中世の哲学者や神学者は、ものの売買は伝統や商品本来の価値で決まる「公正な価格」に基づいてなされるべきだと信じていたが、経済学者たちの見るところでは、市場社会では価格は需要と供給によって決まるので、「公正な価格」などというものは存在しない。(p.8) 

 

■私訳と本書の訳の比較

 細かな表現の違いはあれ、今回の訳出の方向性はお互いほぼ同じだろう。中世の哲学者や神学者と、現代の経済学者の「価格」の捉え方の違いに乖離がある。この点を興味深く感じながら、訳出できた。【続く】

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

【参考文献】

 

 

【私訳#4】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

はじめに

 入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストに、マイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)を訳出する。今回は第4回である。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 引き続き、最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

 Florida has a law against price gouging, and in the aftermath of the hurricane, the attorney general's office received more than two thousand complaints. Some led to successful lawsuits. A Days Inn in West Palm Beach had to say $70,000 in penalties and restitution for overcharging customers.

 

■単語と文法事項の確認

・in the aftermath A:Aの直後に 

complaint:不満・訴え 

lawsuits:訴訟 

restitution:補償・賠償金 

 

■私訳

 フロリダは値上げに対抗する法律があり、ハリケーンの直後に、司法当局は2千件以上の訴えを受け付けた。中には勝訴するに至る事例もあった。ウェスト・パームビーチの「デイズ・イン」のモーテルは高い値を要求し過ぎた客のために7万ドルの罰金と賠償金を命じられなければならなかった。 

 

■本書の訳

 フロリダ州には便乗値上げを禁じる法律がある。ハリケーン・チャーリーの直後には司法当局に2千件を超える訴えが寄せられた。なかには裁判で勝訴するに至ったものもあった。ウエストパームビーチのモーテル<デイズ・イン>は法外な宿泊料を客に請求したとして、罰金と賠償金合わせて7万ドルを支払う羽目になった。 (p.7)

 

■私訳と本書の訳の比較

 読者が理解しやすいように、1行目を本書の訳は分割している。”the attorney general's office received more than two thousand complaints”を、受け身的に訳出している。この箇所も、読者に配慮した結果だろう。

 

 また3行目の”had to pay"を「○○を支払う羽目になった」と訳して、「やむを得なく受け入れている」感じを表現している。

 

 比較的短い段落であるが、本書の訳は直訳を越えて読者に配慮した訳出であることが分かった。【続く】

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

【参考文献】

 

 

 

【第6回】カントの「完全義務」と「不完全義務」について|おわりに【カント道徳哲学】

 

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

6.おわりに

 以上、今回はカントの「完全義務」と「不完全義務」について検討した。その結果、次のことが明確になった。

 

 すなわち「完全義務」は、われわれの思考によって判定可能であるということである。他方、「不完全義務」について、理性的存在者としてのわれわれが意欲することができるかどうかによって判定できる。

 

 「完全義務」について考える際、カントはそれに反する「格率」が普遍的法則になり得るかどうかで判定する。すると、この「格率」は自ら考えることによって自己矛盾に陥るので、この「格率」は普遍的法則になり得ないとカントは結論づけた。

 

 別の視点で考えると、「完全義務」に当てはまる「格率」を自ら考えることによって、それが自己矛盾しているかどうかで判定することができるとカントは考えていることが明らかである。ゆえに「完全義務」の場合、もしもある「格率」をわれわれが考えることによって矛盾が無いと判定されるならば、この「格率」は「完全義務」として認められる。

 

 他方、「不完全義務」は単に矛盾無く考えることができればよい、という訳にはいかない。「不完全義務」は、「格率」が普遍的法則として考えることができるということと同時に、理性的存在者として意欲することができなければ、その「格率」は「不完全義務」に値しない。「不完全義務」について考える時、カントはこの「義務」の「格率」が理性的存在者としてのわれわれの意欲と矛盾しているかどうかで判定している。

 

 この議論から新たな問題が浮上する。その問題とは、理性的存在者が意欲するとはどのようにして可能か、という点である。

 

 理性的存在者が意欲するとはどのようにして可能かという問題を解決するため、その手がかりを『判断力批判』に求める。確かに『判断力批判』は、主に美について書かれた著作である。しかし、『判断力批判』は必ずしも道徳的な判断と無関係とは言い切れない。『判断力批判』に登場する「趣味判断」と「共通感官」という概念から、理性的存在者が意欲するとはどのようにして可能かという問題は別稿に譲る。【終わり】

 

【参考記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 

【私訳#3】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

はじめに

 入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストに、マイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)を訳出する。今回は第3回である。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 引き続き、最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

 Many Floridians were angered by the inflated prices."After Storm Come the Vultures," read a headline in USA Today.One resident, told it would cost $10,500 to remove a fallen tree from his roof, said it was wrong for people to "try to capitalize on other people's hardship and misery". Charlie Crist,the state's attony general, agreed:"It is astounding to me, the level of greed that someone must have in their soul to be willing to take advantage of someone suffering in the wake of a hurricane". 

 

■単語と文法事項の確認

・inflate:高騰する 

・Vultures:ハゲタカ 

・headline:見出し 

・resident:住民 

・capitalize on A:Aにつけ込む 

・hardship:困難 

・misery:不幸 

・attony general:司法長官 

・astound:驚く 

・greed:貪欲さ 

・be willing to do:~しても構わない 

・take advantage of A:Aを利用する 

・in the wake of A:Aの後に 

 

■私訳

 フロリダの多くの人々が高騰した物価に怒った。「嵐の後にハゲタカがやって来る」という『USAトゥデイ』に書いてあった。ある住民は倒れた木を自分の屋根から取り除くために10,500ドルかかると言われ、「他人の困難や不幸につけ込もうとする」人々はよこしまであると語った。州の司法長官であるチャーリー・クリストは、「ハリケーンの後に被害を被っている人々を利用して構わないという精神を持つことは驚きである」という点に同意する。 

 

■本書の訳

 多くのフロリダ住民が物価の高騰に怒った。『USAトゥディ』紙には「嵐去りハゲタカ襲来」の見出しが躍った。ある住民は屋根から気を一本降ろす作業の料金が1万500ドルだと言われ、「人の苦境や不幸に付けこもうとする」連中はよこしまだと語った。フロリダ州司法長官チャーリー・クリストも同意見で、「ハリケーンの後で困っている人を利用しても構わないと思える輩の内なる欲の力の深さには呆れ返るばかりだ」と述べた。 (p.7)

 

■私訳と本書の訳の比較

 「私訳」と本書の訳を比較して、単語選びで生々しさを表現できることに気付いた。例えば、”read"を私は辞書的に「書いてあった」と訳したのに対して、本書では「躍った」と訳している。また”astound”を私は「驚きである」と訳したのに対して、本書では「呆れかえる」と訳している。訳し方で、サンデルの立ち位置や本に登場する人物の感情を実況できることに翻訳の面白さを感じた。【続く】

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

【参考文献】

 

 

【私訳#2】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

はじめに

 入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストにマイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)の訳出に、引き続き挑戦する。今回は第2回である。

 

【前回の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

 前回と同じように、最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

 At the gas station in Orlando, they were selling two -dollar bags of ice for ten dollars. Lacking power for refrigerators or airconditioning in the middle of August, many people had little choice but to pay up. Downed trees heightened demand for chain saws and roof repairs. Contractors offered to clear two trees off a homeowner's roof – for $23,000.Stores that normally sold small household generators for $250 were now asking $2,000. A seventy-seven-year- old woman fleeing the hurricane with her elderly husband and handicapped daughter was charged $160 per night for a motel room that normally goes for $40. 

 

■単語と文法事項の確認

・power:電力 

・pay up:(しぶしぶ)支払う 

・contractor:工務店 

・offer:申し出る 

・household generator:家庭用発電機

・ask:要求する 

・flee:逃げる 

・charge:請求する 

 

■私訳

 オーランドのガソリンスタンドで、1袋2ドルで氷が10ドルで売られていた。8月の半ばに電力がなくて冷蔵庫やエアコンが使えなくなったので、渋々支払うしかなかった。倒れた木々によってチェーンソーや屋根の修理の需要が高まった。工務店は23,000ドルで家主の屋根から2本の木を取り除くと申し出た。普段は小型の家庭用発電機を250ドルで売っている店が2,000ドルを要求した。高齢の夫と障害を持つ娘と共にハリケーンから逃げてきた77歳の老婦人は普段40ドルのモーテルに一晩160ドル請求された。 

 

■本書の訳

 オーランドのあるガソリンスタンドでは、一袋2ドルの氷が10ドルで売られた。8月の半ばに電気が止まって冷蔵庫やエアコンが使えなかったため、多くの人はしぶしぶ10ドル支払うよりほかなかった。木々が吹き倒されたので、チェーンソーや屋根修理の需要が増加した。お宅の屋根から木を二本取り除く作業ですね、やりますよ-2万3千ドルで-と土建業者は言ってきた。普段は家庭用小型発電機を250ドルで売っている店が、今では2千ドルを要求した。いつもなら一晩40ドルのモーテルが、老齢の夫と障害者の娘を連れて避難した77歳の婦人に160ドルを請求した。(p.6)

 

 

■私訳と本書の訳の比較

 若干の表現の違いはあるが、訳出の主な路線は同じである。まだ導入部分なので、この段階でサンデルが何を主張したいのか明確ではない。今後の展開を期待しながら、読み進めていくしかない。【続く】

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

【参考文献】

 

 

【私訳#1】Justice:What's the right things to do ?- 『英語で読む哲学』より

 

はじめに

 今回から27回にわたり、入不二基義編『英語で読む哲学』をテキストにマイケル・サンデル”Justice:What's the right things to do ?”(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)の訳出に挑戦する。

 

 最初に原文を記し、次に単語の意味や文法解説と私訳を提示する。そして、本書の翻訳を該当箇所から引用する。その後、私訳と本書の訳を比較した私見を述べる。

 

[内容]

■原文

■単語と文法事項の確認

■私訳

■本書の訳

■私訳と本書の訳の比較

 

■原文

 In the summer in 2004, Hurricane Charley rolled out of the Gulf of Mexico and swept across Florida to the Atlantic Ocean. The storm claimed twenty-two lives and caused $11 billion in damage.It also left in its wake a debate about price gauging. 

 

■単語と文法事項の確認

・rolle :発生する 

・sweep:通過する 

・out of A across B to C:ハリケーンの猛威の説明。本書によれば、発生地点、経由地そして到達地点を示す。

・claim:命を奪う 

・in the wake of A:Aの結果として。 本文での”in its wake"のitsはthe stormを示す。

・price gaugin::法外な値で売ること 

 

■私訳

 2004年夏に、ハリケーン・チャーリーはメキシコ湾で発生しそしてフロリダを横切り大西洋を通過した。その嵐は22人の命を奪い110億ドルの被害を引き起こした。その結果として法外な値で売ることについて論争が生じた。

 

■本書の訳

 2004年の夏、ハリケーン・チャーリーはメキシコ湾で発生し、フロリダを横切って大西洋に抜けるまで猛威を振るった。嵐は22人の命を奪い,被害総額は110億ドルにのぼった。その爪痕から便乗値上げをめぐるある論争が生じたのだった。(p.5)

 

■私訳と本書の訳の比較

 直訳に近い形で私は訳出した一方、”price gauging”を「便乗値上げ」と訳すなど、本書の北野安寿子訳の方は読者が理解しやすいよう工夫されている。また、サンデルが目の前で語っているかのような臨場感を演出した訳出をしていることに気が付いた。

 

 私の場合、あまりこなれた訳し方より、辞書や文法事項に則した形で訳出するよう心掛ける。【続く】

 

【次の記事】

chine-mori.hatenablog.jp

 

【参考文献】

 

 

【参考記事】

nuhsnuh.hatenablog.jp