ネコと倫理学

カント道徳哲学/動物倫理学/教育倫理学/ボランティアの倫理学/ネコと人間の倫理的関わりについて記事を書いています。

【第2回】道徳教育での「主体的・対話的で深い学び」についての一考察-カント道徳教育を中心に- |『教育学』での基本的考え方【教育倫理学】

2. 『教育学』での基本的考え方

【参考: 教育学】

 

 始めに、カントの教育論の基本的考え方について簡単に確認する。カントは『教育学』冒頭で次のように述べる。

 

 人間は教育されなければならない唯一の被造物である。教育とは、すなわち擁護(保育、扶養)と訓練(訓育)と教授ならびに陶冶を意味する。これに従って、人間は乳児であり-生徒であり-そして学生である。 (Ⅸ,441)

 

 ここで、「教育されなければならない唯一の被造物である」という人間観をカントは提示する。その中で「教育」の対象を乳児、生徒そして学生とする。そしてカントは教育を「養護」、「訓練」、「教授」そして「陶冶」に分類する。

 

 カントによれば、「養護」は子どもが自分の能力の危険な用い方をしないよう両親が予め配慮することである。「訓練」は、人間がその動物的衝動によって人間の使命である人間性から逸脱することのないように予防することである。

 

 例えば、人間が粗暴に無分別に危険に身をさらすことのないよう人間を拘束することである。

 

 これに対して、「教授」は教育の積極的な部分を意味する。「陶冶」は、消極的意味では単に過ちを防ぐ訓練である。他方、「陶冶」は積極的意味では教授と教導である。その限りで、「陶冶」は教化に属す。

 

 また別の箇所で、カントは「教育」を「自然的教育」(Ⅸ,455)と「道徳的教育」(ibid.)に分類する。「自然的教育」を「保育」とする一方、「道徳的教育」を人間が自由に行為する存在者として生活できるよう「陶冶する教育」(ibid.)と定義する。それは人格性への教育、すなわち自立し社会の一員となりしかも自分自身の内的価値を持てるよう自由に行為する存在者になるための教育である。

 

 平成30年度告示『高等学校学習指導要領』第1章総則の「第1款 高等学校教育の基本と教育課程の役割」の中で、文部科学省は道徳教育の目標を次のように規定する。

 

 道徳教育は、教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき、生徒が自己探求と自己実現に努め国家・社会の一員としての自覚に基 づき行為しうる発達の段階にあることを考慮し、人間としての在り方生き方 を考え、主体的な判断の下に行動し、自立した人間として他者と共によりよ く生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とすること。(文部科学省,2018,19)

 

 『高等学校学習指導要領』のこの箇所で「自己探求と自己実現に努め国家・社会の一員としての自覚に基づき」行為し、生徒が「人間としての在り方生き方を考え、主体的な判断の下に行動し、自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うこと」を平成30年度告示『高等学校学習指導要領』は教育目標に据えている。

 

 『教育学』でのカントの立場に立つと、「陶冶する教育」を乳児、生徒そして学生に行わなければならない。これは、「自己探求と自己実現」に努め「国家・社会の一員」であると同時に「自立した人間」を目標とする平成30年度告示『高等学校学習指導要領』と類似する。 

 

 以上のことから考えると、カントの道徳教育が平成30年度告示『高等学校学習指導要領』に反映されていることが分かる。【続く】